米VC500の日本チームが独立 50億円の新ファンド
米有力ベンチャーキャピタル(VC)の500スタートアップスで日本向けファンドを担当していたチームが独立し、新たなVCを設立した。社名はコーラル・キャピタル(東京・千代田)。みずほ銀行や三菱地所などから総額50億円の出資を受け、日本のスタートアップ企業に投資する新ファンドを組成した。
500スタートアップスジャパン創業者のジェームズ・ライニー氏は日本経済新聞社に対し、「日本ファンドを立ち上げた3年前と比べてスタートアップを巡る環境が変化してきたため」と独立の理由を語った。共同代表の沢山陽平氏を含むメンバー5人全員が新会社に移る。日本でも新たなファンドを創るキャピタリストは増えているが、著名VCの投資チームがまるごと独立するのは珍しい。
米シリコンバレーに本拠を置く500スタートアップスは世界60カ国以上で2200社以上のスタートアップに投資する。日本では3年前に本格的に活動を開始、38億円の1号ファンドを組成し、これまでに43社に投資した。当初は「シード」と呼ばれる創業間もない企業を中心に1社あたり1000万~3000万円を200社程度に投じる計画だった。
しかし、日本に根を張って活動する中で、「事業開始に許認可が必要な貸金業や保険業など、起業家が手がける事業領域の難易度が上がっており、1社あたり5000万円程度が必要」(ライニー氏)なことが分かってきた。投資先企業に対して人材採用やマーケティングなどを支援する活動にも力を入れており、「日本では投資社数を絞って集中的に支援した方が良い」と判断。「500のグローバルな戦略と乖離(かいり)が出てきた」ため、米500の経営陣とも協議し、別ブランドのVC設立を決めた。
1号ファンドの既存の投資先43社については引き続きライニー氏や沢山氏が支援を継続するが、今後の新規投資はコーラル・キャピタルを通じて行う。新ファンド(2号ファンド)はすでに組成が完了しており、みずほ銀行などのほか、電源開発、新生銀行や海外の機関投資家も参加する。1社あたりの投資金額は追加投資も含めて5000万円~最大2億円を想定。「テクノロジーを使って業界の課題解決に挑戦する社会人起業家」を中心に40~50社の日本企業に投資する計画だ。
社名のコーラルはサンゴ礁を意味し、「海の様々な生物の生活を支えるサンゴ礁のように起業家を支える存在をめざす」という。背景には「ここ数年でVCが急激に増え、投資家も起業家から選ばれるようになってきている」(沢山氏)ことがある。これに対応し、コーラルは資金調達、採用、広報などの投資先の支援体制を充実させていく考えだ。
米500スタートアップスのクリスティン・ツァイ最高経営責任者(CEO)はライニー氏らの独立について「彼らの新たな挑戦を誇りに思う。今後共同で投資できることを楽しみにしている」と述べた。日本での投資は今後も継続する計画だが、「将来のファンドや人員について現時点で公表できることはない」としている。
(企業報道部 鈴木健二朗)