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ベンチャー企業とスタートアップは何が違うのか?

Coral Insightsの過去ブログの記事や対談などをご覧いただければお分かり頂けると思いますが、「ベンチャー(企業)」という用語と「スタートアップ」という用語が混在しています。文脈の違いで使い分けていますが、この2つはどう違うのでしょうか?

短い答えは「ほぼ同じ」です。ただし、スタートアップは比較的新しく出てきた言葉で、現在徐々に入れ替わりが起こっています。では、単に言い換えかというと、恐らくそうではありません。クラウドやモバイルの普及により、かつてベンチャー企業と呼ばれた企業のうち、特にソフトウェアやネットの力を最大限に生かした急速な事業立ち上げをする企業群が「スタートアップ」と呼ばれるようになった、という経緯があり、指し示しているものにズレがあるからです。

「ベンチャー企業」と「スタートアップ」の使い分けについて、一般的にスタートアップ業界で使われていると思われるニュアンスについて整理したいと思います。

株式による資金調達の有無

「スタートアップ」は起業の一形態です。方法論として動詞的に使われることもありますが、基本的にはスタートアップ企業とも呼ぶように会社のことです。スタートアップは株式の新規発行による資金調達を行っていることがほとんどです。

スタートアップへ出資を行うのは一般の事業会社や投資会社、個人のエンジェル投資家がありますが、特に大きいのは投資を専門に行う「ファンド」(日本語では投資組合など)です。スタートアップへ投資するファンドを運用する事業体はベンチャーキャピタル(VC)と呼ばれます。このVCによる資金や経営の援助を受けて急成長を目指す企業がスタートアップと呼ばれます。

一方、銀行からの融資や公的な助成金のみで会社を立ち上げて、じっくり技術や顧客と向き合い財務的に無理のない成長を目指すアプローチを取る会社をスタートアップと呼ぶことはありません。

10年というファンド運用期間の時限付きで機関投資家や事業会社から資金を預かり、急成長による株式売却益を得て、それを出資者に返すというのがVCのビジネスモデルです。ですから、「急成長」ということと表裏になっています。

ベンチャー企業の「venture」の語義からするとリスクのある事業に取り組むことを指していて、成長の時間軸や立ち上げ方については、スタートアップよりずっと広い意味で使われています。全てのスタートアップ企業はベンチャー企業と言い換えられそうですが、逆はそうとは限りません。

設立年による呼び方の違い

米国なら2000年以降、日本なら2010年代以降に生まれた急成長を目指すベンチャー企業をスタートアップと呼ぶようになりました。例えば、マイクロソフトやオラクルはVCから資金調達をして上場していますが、その当時はスタートアップという言葉は存在していませんでした。国内なら1997年創業のサイボウズも同様にスタートアップと呼ばれていませんでした。

独立系VCと呼ばれるスタートアップに投資するファンドが立ち上がったのは2000年前後です。シード、シリーズA、シリーズB……、と段階的に株式発行による資金調達を繰り返す形での会社立ち上げが日本で一般化したのは2010年以降です。ファイナンスや立ち上げスピード、立ち上げ方の点で、それまでと質が異なるために新しい用語として「スタートアップ」が定着しました。

立ち上げフェーズをシード期、シリーズA、B……と区分し、それぞれの時点でのビジネス上の達成目標、売上規模などで、業界で緩やかなコンセンサスが成立しはじめたのもスタートアップという用語の普及と同時期です。

官公庁や大手メディアは、広範囲で使われるようになるまで新語を採用しない慎重な傾向があるため、新聞や公的文書などではスタートアップという用語よりもベンチャー企業のほうが、いまもまだ一般的です。似た用語としてVB(ベンチャービジネス)という言葉も使われています。

事業拡大速度の違い:スケーラビリティー

スタートアップは急成長を前提としています。それを可能にしたのは、一度プロダクトをつくれば、極めて低い追加コストで量産や市場拡大ができる技術革新です。シリコンバレーは文字通りシリコンを使った半導体産業からスタートして、後にソフトウェア、ネットへと比重がシフトしていますが、全てに共通するのはスケーラブルであることです。

インテルやNVIDIAといったチップメーカーの半導体は一度設計してしまえば、1つ1つのチップの原価や製造コスト自体は安価です。ソフトウェアについても複製を作るコストはゼロです。こうした限界費用がゼロ、もしくは極めて小さい事業がスタートアップに向いていて、これはクルマなどと違う大きな特徴です。

ソフトウェアはかつて磁気ディスクや光ディスクに焼き込んで配布していました。今はモバイル端末とネットワークが行き渡ったことで、ますます短期間でプロダクトを広めることができるようになりました。

2000年代に起こったカンブリア爆発

クラウド登場以前には、今でいうSaaSのようなビジネスアプリケーションをネットで提供するベンチャー企業を立ち上げるにはサーバーやネットワーク機器、商用データベースのライセンス費用、そしてそれらを扱える専門エンジニアなど初期投資だけで1億円程度が必要でした。それがクラウドとオープンソースの台頭により、ソフトウェア企業を立ち上げる初期コストは、いきなり100分の1になりました。

この変化にともなってカンブリア爆発になぞらえられるスタートアップの大ブームが起こりました。カンブリア紀に生物種が突如爆発的に増加したのと似て、新しいスタートアップが大量に生まれたのです。

カンブリア紀の劇的変化は、大気中の酸素濃度が臨界点を超えたことが背景にあります。それにより体表面から酸素を採り入れる生物が大型化できて体内に複雑な組織が発達できる余地が生まれました。これが生物種の多様性に繋がったそうです。これと同様に、先進国を中心とした量的緩和による余剰資金や、劇的に低下した初期コストによって、年間2万社ものスタートアップがシリコンバレーに生まれるようになりました。

最初はシリコンバレーが中心でしたが、スタートアップは世界中に広がっていきました。ちょうどフィレンツェから始まったルネサンスが欧州各地に広がったように「スタートアップ・VC」という方法論を使ったイノベーションが世界中に広がったのが2010年代でした。このブームとともに広がった言葉が「スタートアップ」でした。

こうした語感があることから、製薬やバイオ、ロボティクスなどでは、今でも「バイオベンチャー」というようにベンチャー企業と言われることが多いようです。製薬も製造コスト自体はきわめて低いですが、特許保護による産業振興や、集約された大資本による研究開発のリスク管理など、スタートアップのエコシステムとアプローチが異なるため、あまりスタートアップという言葉が使われない傾向にあります。

上場企業をスタートアップと呼ぶことは、まれ

マザーズ上場企業であっても「バイオベンチャー」のようにベンチャーと呼ばれる企業はたくさんあります。一方、「スタートアップ」には初期の急速な立ち上げに焦点が当たっているからか、上場後にスタートアップと呼ばれ続けることはまれです。メルカリやラクスルなどは「メガベンチャー」と呼ばれますが、「メガスタートアップ」というのは聞きませんし、ほとんど形容矛盾に感じられます。

これは恐らく「VC支援」と対となる話です。上場という株式の流動化イベントで、多くのVCはイグジット(持分を売却)します。最初に指摘したとおり、スタートアップとVCはエコシステムの中ではコインの表裏の関係にあります。ですから、上場企業をスタートアップと呼ぶことは、あまり多くありません。

いろいろと書いてきましたが、「ベンチャー企業」「スタートアップ」という似た言葉に一義的に明確な定義を与えるのは困難です。何を指しているかという含意は時代とともに変化します。ただ、新語が出てくるときには背後で何か質的な変化が起こっているものだと思います。

ベンチャーエコシステム
西村 賢

西村 賢

Partner, Chief Editor @ Coral Capital

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