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ベンチャーキャピタルがPEファンドから学べること

本ブログはニューヨークのベンチャーキャピタルUnion Square Venturesでパートナーを務める、Fred Wilson(フレッド・ウィルソン)氏のブログ「AVC」の投稿、「What VC Can Learn From Private Equity」を翻訳したものです。


数週間前、友達のEric(エリック)と一緒に1週間ヨーロッパにいました。彼は、プライベートエクイティファームでマネージングディレクターをしています。その1週間の間、彼の業界と私の業界について、たくさん話をしました。その後もずっと、いろいろと考え続けています。また私は、投資先企業の取締役会に参加し、そこでマイナー投資をしているプライベートエクイティの投資家と一緒に仕事をする機会に恵まれました。彼の投資に対する考え方や実際の投資の様子を見ることで、かなり多くを学ぶことができました。最後に、私が初めて立ち上げに協力したベンチャーキャピタルのFlatiron Partnersは、当初プライベートエクイティファームのChase Capital Partnersから間借りした状態で、また同ファームから支援を受けていました。彼らが毎週行なっていた投資ミーティングに出席してビジネスの話を聴くことで、Jerry(ジェリー)と私は多くを学ぶことができました。

ベンチャーキャピタルとプライベートエクイティファームでは、投資の原則は全く異なります。どちらも非上場企業の株式を購入し、その後M&Aや株式公開のタイミングで、より高値で株式を売却することを狙います。どちらでも投資家は役員となり、投資のモニタリングと管理を行います。以上のように確かに類似点もありますが、逆に言えば類似点はこれくらいしかありません。ベンチャーキャピタルだったものが徐々にプライベートエクイティファームに変貌を遂げる例を私は複数見てきましたので、片方の分野の投資に関するスキルには、他方に応用できるものがあることは明らかです。しかし、それでもなお私は、これら2つの投資分野は根本的に異なっていると考えています。以下、最大の相違点をいくつか挙げます。

1) プライベートエクイティファームでは過半数の株式を取得(マジョリティ出資)します。それに対して、ベンチャーキャピタルでは過半数を超えない株式を取得(マイノリティ出資)します。

2) プライベートエクイティファームでは、投資に失敗して資金を失うということは許されません。それに対して、ベンチャーキャピタルでは失敗を恐れてはなりません。

3) プライベートエクイティファームでは金融工学を武器にレバレッジを生み出します。それに対して、ベンチャーキャピタルでは技術主導での既存の枠組みの破壊とそこから生まれるチャンスを武器にレバレッジを生み出します。

では、ベンチャーキャピタルはプライベートエクイティから何を学べるでしょうか。過去数週間このことについて私が考えてきたなかで、思い当たったことを以下にいくつか挙げます。

1) 多くのベンチャーキャピタリストやベンチャーキャピタルは、投資先の起業家に「乗っかる」だけで、投資先の企業の進む方向を変えようという努力はあまりしません。一部のベンチャーキャピタルでは、投資先の役員の席を引き受けないことすらあります。ベンチャーキャピタルによる「バリューアッド」(value add;価値の増幅)という話はよくありますが、それはディールを勝ち取る中で見栄えを狙ってのことにすぎないということが、よくあります。投資先に実際に大きな価値をもたらすベンチャーキャピタルは、一般に思われているよりずっと少ないのです。それに対して、プライベートエクイティファームは、投資先の事業の価値を増幅させることを最優先しています。それは1つには、プライベートエクイティファームは投資先の所有者となっているからです。投資先の事業がうまくいかないと、その損害を被るのは他でもなくプライベートエクイティファーム自身というわけです。最終的には出資者が全責任を負います。この考え方を目の当たりにした私は、とても新鮮に感じました。プライベートエクイティの世界では、投資先の事業にとても大きな配慮や注意が払われているのです。プライベートエクイティの優秀なファームやパートナーは、出資対象となる企業にとっては、素晴らしい経営パートナーとなり、事態を大きく好転させてくれる存在です。Eric(エリック)と1週間をすごした私は、私たちの出資先企業とも同じような関わり方をしようと心に決めました。それほど強力なものです。

面倒がって「私たちは事業をコントロールするのでもないし、やりたくても経営手法を変えることはできない。投資先の企業の経営に巻き込まれるなんてごめんだ」と言うのは簡単です。それに私もまったく同感です。しかし、投資先の企業をコントロールしなくても、その経営陣、戦略、および事業に有意義な影響を与えることはできます。経営陣から信頼されれば、そして経営陣に必要とされるときに(もしくはされないときでも)寄り添ってあげられれば、さらに事業、チーム、市場、およびチャンスを真に理解するための努力を惜しまなければ、知性の力で事業にかなり大きな影響を与えることができるだろうと、私は考えています。私も、もっと時間とエネルギーをかけてそれを実践しようと思いますし、それは全てのベンチャーキャピタルが実践すべきことだと思います。

2) プライベートエクイティファームは、通常は複数ファームで連合して同一の投資先に投資を行うことはありません。単一のファームが投資を行い、投資先の事業を成功させる責任はそのファームが一手に引き受けます。私の考えでは、上記の第1点目と比べて、こちらはそれほど絶対的な話ではありません。複数ファームで連合することは、その連合が機能していて小規模である場合には、かなり強力なものとなります。しかし多くの場合、連合は大きくなりすぎ、効率が落ちて機能不全に陥ります。それに、責任のなすりつけ合いが多く発生します。さらに悪いことに、責任を放棄して別の取締役に丸投げすることもあります。投資先のCEOにとっては、誰の話を聞けばいいのかわからない状況がときどき発生します。つまり、複数の投資家から互いに矛盾する指示が入り、どれに従えばいいのかわからなくなり、非効率な混乱をどう管理すればいいかわからなくなるということです。1つのファームが全てを指揮できるプライベートエクイティの世界が、私には羨ましく映ることがあります。誰がボスで誰が決定を下しているのかをはっきりさせることは、全員に有益なのです。ベンチャーキャピタルが連合して同一の投資先に投資する場合、上記のようなはっきりした状況が作れないがために、各ベンチャーキャピタルと投資先の経営陣が苦しむことがしばしばあります。それは、CEOの指導力が弱かったり経験が不足している場合、極めて好ましくない状況となります。

3) プライベートエクイティファームの場合、自身が決めるタイミングで株式の売却ができます。それに対して、ベンチャーキャピタルでは、売却の決断をするのは、投資先の起業家が指揮をしている場合は起業家、そうではない場合は取締役会となります。いずれにせよ、ベンチャーキャピタルはほとんどの場合、売却のタイミングを決められる立場にはありません。先日Tad Friend(タッド・フレンド)が『The New Yorker』で書いたMarc Andreessen(マーク・アンドリーセン)の紹介記事によると、AccelはFacebookをYahoo!に10億ドルで売却しようとしたものの、Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)はそれをかなり嫌がった(そしてMarc Andreessenも彼に売却しないよう強く進言した)とのことです。このエピソードが正確なのか、それとも後から脚色されたものなのかはわかりません(スタートアップ分野では後から話が脚色されるのはよくあることです)。しかしいずれにせよ、ベンチャーキャピタルが売却のタイミングを決めない方がいいときもあるのです。もしベンチャーキャピタルが売却のタイミングを決めていれば存在し得なかった、独立した巨大上場企業はたくさんあります。しかし、それは投資先がホームラン級の成功を収めた場合のみの話です。ベンチャーキャピタルの投資先(私たちの投資先も含む)には、いい企業ではあるものの素晴らしいとまではいかない企業はたくさんあり、それらの株式を売却して、起業家や従業員、投資家がみんな別の道に進める状態にした方がいい、ということもあります。ベンチャーキャピタルにおいては、誰かの鶴の一声で売却のタイミングを決められるわけではないので、上記のような売却の流れになることはあまりありません。

4) プライベートエクイティファームは、投資先の事業に踏み込んで分析し、機能不全に陥っている部分を見つけ出したり、その対処法を突き止めることに長けています。ベンチャーキャピタルの世界では、そうしたことはあまり行いません。1つには、そうしてしまうと、投資先のCEOは邪魔されているように感じてしまうからです。それに、プライベートエクイティファームには投資先への助言を行うアソシエイトやジュニアパートナーが大勢いますが、ベンチャーキャピタルにはいません。私は、プライベートエクイティのパートナーが、成長企業へのマイノリティ出資に関わるのを観察したことがあります。投資先の事業内容に踏み込むことが許された彼らが行う、とても深い洞察に感激しました。投資先の企業が成長して経営規模が拡大する時期というのは、本来なら上記のような「コンサルティング」が最も有意義な時期であるはずであるのに、ベンチャーキャピタルは関心を失うことが少なくありません。それに対しプライベートエクイティファームは、そのタイミングで最大限に力を発揮します。

私は、企業の発展の中で、上記のような時期にもっと注意を向けるべきだと気付きました。なぜなら、私たちが得るリターンのほとんどはホームラン級の成功を収めた企業からもたらされるわけで、(プライベートエクイティファームが目指すように)その企業価値を2倍や3倍にする手助けができれば、そうした大成功例からのリターンを50倍から150倍に増やすことができるからです。これは大きな差となります。そのため、アナリストやコンサルタントを多数従えて投資先で最も成功している各企業を深く分析するとまでは言わないものの、より鋭い質問をし、より事業に関わっていくことで、私が役員をしている企業の価値をより高めようと思っています。

ここ数週間でプライベートエクイティファームについてじっくりと考えたなかで気づいたことは、責任の体系を極めて明確にすること、キレのある意思決定をすること、指揮をとる人を明確にすること、そして最も大切なこととして、投資先企業のビジネスに対して、より深い当事者意識と責任感を持つことの価値です。1人のベンチャーキャピタルのパートナーが、これを8社とか10社以上の投資先企業に対して行うことは無理ですし、ほとんどのベンチャーキャピタルはそれよりもっと多くの投資先を持つことで、事業と経済的利益の拡大を図っています。しかしプライベートエクイティファームにおいて非常にうまくいっている仕組みからは、学ぶべきところが多いと思います。彼らの戦略の一部を真似ることで、私たちが支援する起業家や彼らがつくる企業の業績を向上できると思います。

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Editorial Team / 編集部

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