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スタートアップ向け法人設立ベストプラクティス(5)― 長すぎる役員任期は要注意

急成長を目指すスタートアップでは、法人設立時に気を付けるべきことが、一般的な小規模事業者と異なります。スタートアップ向け法人設立ベストプラクティスの決定版として開始した本連載ですが、5回目の今回は役員任期を何年に設定すべきかについてです。

連載目次

第1回:資本金はいくらにするのか?
第2回:株式数、共同創業者の持分比率はどうする?
第3回:株式の譲渡承認機関は「当会社」とする
第4回:公告方法は官報にして、後に電子公告とする
第5回:長すぎる役員任期は要注意
第6回:事業年度をいつにするか?

オススメ:役員任期は1年か2年にする

スタートアップ向け法人設立のベストプラクティスとして、定款に書くべきことで次に取り上げるのは役員の任期についてです。

取締役2人以上でスタートアップするなら役員任期は1年か2年が良い

というのが結論です。役員任期について特に定款に定めない場合は2年となりますが、1年と短くするのも手です。

考え方としては、スモールビジネスとして自分1人が経営者として細く長くやっていくという場合は任期10年としてしまうのが、手間もコストもかからず良いものの、経営も経営陣も変化の速いスタートアップでは短いほうが良いということです。

コストの観点は簡単です。役員重任(任期満了で退任したとき、再び役員として選出・承認すること)のときに登記費用で約5万円(専門家報酬と登録免許税)が更新のたびにかかります。ですから、オーナー企業として自分1人で会社を経営するなら、最初から設定可能な最長の10年としておくのが良いでしょう。

ところがコストだけを考えて役員任期を10年として後悔した、というスタートアップの起業家もいます。それは訴訟リスクがあるからです。

揉めたり、訴訟に発展するリスク

役員が役員でなくなるには3つのパターンがあります。

  1. 自分から辞める「辞任」
  2. 株主総会の決議による「解任」
  3. 任期満了

会社法339条には「役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる」とあります。つまり株主総会の決議があれば、いつでも役員は解任(クビ)できるのです。しかし、ここには訴訟リスクがあります。同339条2項には「前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる」とあり、「正当な理由」で争うことがあり得るからです。

もし10年の任期のうち8年を残して解任した場合、8年分の役員報酬について損害賠償請求の訴訟を受けるリスクがあります。スタートアップの経営者で、実際に1億円の賠償請求にまでもつれ込みそうになったという話も聞こえてきます。

解任の「正当な理由」としては、不正行為や法律違反、病気、能力不足、経営方針の違いなどがあり得ます。能力不足を理由に辞任勧告をして拒否する役員が、それを自分の責であると認めることは考えづらいでしょう。判例をみても会社側敗訴で賠償するケースは少なくありません。実際の訴訟とならなくても、スピードが命のスタートアップで、こうした揉め事は致命的です。創業チームが訴訟の爆弾を抱えていたり、まして係争中というスタートアップに対する出資を躊躇しない投資家はいないでしょう。

そうであれば、最初から1年か2年ごとに株主の総意として毎回選任されるようにするほうが良い、というのが冒頭のアドバイスです。今回企画に協力してくれたある起業家は以下のようにコメントしてくれました。

「スタートアップの場合、資金調達することが前提なので、設立から1年も経てば外部資金が入っているはず。そうなると、所有と経営の分離という本来の会社法が理想としているコーポレートガバナンスに立ち返り、1年ごとに株主の審判を受けるのも悪くないと考えています」

「任期が短すぎると、長期的視野での経営ができないという考え方もあり得ますが、スタートアップは変化が激しいので1年あれば一定の成果は見えていると思います」

「さらに実務的な視点で言えば、設立数年で創業者の持株比率が50%を割ってしまうような調達はそれほどないでしょうから、任期を1年にしたからといって不当に役員の地位を追われることは少ないでしょう。そうすると後は登記費用や株主総会への議案掲載といった金銭面・事務面での手間暇の問題になってきます」

ちなみに、東京証券取引所が毎年出しているコーポーレートガバナンス白書の2019年版によれば、「近年では、経営環境の変化に機動的に対応するため、経営責任の明確化及び株主の信任を毎年得ることによるコーポレート・ガバナンス体制の強化のためなどを目的として、監査役会設置会社において、取締役の任期を1年とする会社が増加している」とのことで、任期1年とする上場企業の割合は6割を超えています。

会社の成長に個人が追いつくか

もう1つ、スタートアップが考慮に入れておくべき視点は、急速に成長した場合に、後から優秀な人材が入ってきて、経営陣のバランスが崩れることがあるという点です。

成長に十分な手応えがあって大型のシリーズA資金調達を終えるようなタイミングでは、外部から優秀な人材が入ってくることが増えます。このとき初期創業メンバーの役員と、後から来たメンバーの間で軋轢が生まれることがあります。

スタートアップの成長に併せてトップの経営者や、経営メンバーが同じくらい成長できるかというと、必ずしもそうではないのが現実です。このとき、任期満了で役員を退任して、次に選任されないのは当人にとっても初期からともに戦っているメンバーにもつらいことでしょう。しかし、もっとつらいのは任期を理由に役員交代が起こらず、揉め事や、最悪は訴訟に発展してしまうことです。

多くの経営者や投資家が、「最初から安易にCxOのタイトルを与える役職インフレに気をつけろ。役職にふさわしい実力が証明できてから役員にするのはきわめて容易なのだから」と指摘するのも似た話です。いったん与えられたものを奪われるとき、きわめて強い喪失感や不公平感を感じるのが人間の性です。

小規模事業者であれば「役員任期を10年にする」というアドバイスは一般的かもしれません。しかし、変化の速いスタートアップでは、長すぎる役員任期は要注意です。コストを抑えられる一方で、リスクもありますから、上記の議論を踏まえた上で慎重に検討することをお勧めします。

最終回となる次回は、事業年度をいつにするかというテーマを取り上げます。本連載企画には、以下の方々にご協力頂いています。

  • 司法書士の真下幸宏さん(スタートアップの設立やエクイティファイナンスを支援しているaviators司法書士事務所
  • スタートアップ共同創業者でCEOを務める竹井悠人さん(暗号資産リスクスコアAPIを開発・提供する 株式会社Basset
  • 土屋輝章さん(ノイン株式会社、コーポレート部 部長)
  • 税理士の榎並慶浩さん(Gemstone税理士法人、パートナー)
  • ベンチャーキャピタリストの澤山陽平(Coral Capital、創業パートナー)
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