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成長SaaS企業のカスタマーサクセスづくり【後編】

SaaSで注目の新職種「カスタマーサクセス」。過去4年半にわたって組織と体制づくりを行ってきたSmartHRのカスタマーサクセス、マネージャーの稲船祐介さんにポイントを解説いただきました。前編記事では、どこで最新のプラクティスや関連知識を手に入れのるか、SmartHRの各成長フェーズでで実際に取り組んだ課題は何だったか、といったことについて解説いただきました。続く後編の本記事では、いかに属人化を防ぐか、テックタッチ導入を急ぎすぎてはいけない理由、KPI設定の要点などを解説いただきました。

株式会社SmartHR カスタマーサクセスグループ マネージャーの稲船祐介さん

カスタマーサクセス の「属人化」を防ぐ

――SmartHRのカスタマーサクセスは顧客規模や業務内容で3つのユニットに分けるユニット性を導入していますが、さらにユニットの中に複数チームがありますね。これはなぜでしょうか?

属人化を防ぐためです。特にエンタープライズの場合は、お客さまとの対面サポートを通じた細かいミーティングなども必要になってくるため、どうしても担当者(CSM:カスタマーサクセス・マネージャー)に依存します。

各社1名体制で担当していると、CSMが体調を崩したり、配置換えをしたりするタイミングで引き継ぎが上手く行われず顧客体験が悪化するリスクなどが生じます。また、ナレッジが共有されづらくなり、ノウハウが「秘伝のタレ化」してしまうので若手のCSMが育ちにくくなる環境が生まれました。

このような課題にぶつかっていたため、2020年からチーム体制に移行しました。1社に対してメイン担当とサブ担当がつくという形にしています。チーム体制にすることで、CSMの属人化の軽減と、若手の育成環境の創造に繋げることができました。

いきなりテックタッチを増やすより、まずはハイタッチ

――プロダクトが成長すると組織だけでなく、対応の形も少しずつ変わっていきます。対応の形はどのようにつくりあげていけば良いのでしょうか。

カスタマーサクセスといえば、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチの3つの手法の話が出てきます。大まかにいうと、きめ細かな個別対応を行うのがハイタッチ、手法を標準化した対応がロータッチ、テクニカルな方法を用いて人による顧客対応を減らすのがテックタッチですが、最初からテックタッチを導入しないことが重要だと考えています。

最初はお客さまの声をとにかく聞き続けるほかなく、必然的にハイタッチになります。カスタマーサクセスのコミュニティでも「初期から効率よくテックタッチでやれるところはやっていきたい」という声をよく耳にします。

ただ、お客さまの声をプロダクトに反映させていくことが、何よりもプロダクトの成長の近道です。お客さまの声に耳をしっかりと傾けることで、どのようにアップデートしていけば良いかというヒントも得られます。プロダクトが成長したとしても、この基本は変わりません。

もちろん、クライアントの数が増えていく段階でテックタッチに切り替えなければならない領域やタイミングは必ずやってきます。クライアント数の増加だけでなく、リモートワークが推奨されてきている現状からも対面での応対には限界があるので、テックタッチを取り入れる姿勢は大事です。

オンラインのコンテンツの中で上手く説明を入れることで、お客さまにとっての問題を少なくすることにもつながります。その他、ユーザーコミュニティなどの場を用意することで、ユーザー同士で問題を解決していく仕組みをつくりあげていくという選択肢もあります。

SmartHRでもこれまで取ってきたアプローチから次のフェーズに移行しなければならないと考えており、新しい形を模索しているところです。

重要KPI、オンボーディングの定義を厳しくしすぎない

――カスタマーサクセスのKPIを決めるときに注意すべき点はありますか?

はじめから「オンボーディング」の基準を厳しく設定しないことです。オンボーディングの定義を細かいところまで設定してしまうと、永遠にオンボーディングが終わりません。ここを厳しくしすぎるとオンボーディングが終わっていないお客さまだらけになってしまいます。

しかし、お客さまによっては機能を100%使わずとも十分に満足している場合もありますし、「今は取り組むべき時期ではない」という理由で使っていない機能があるといった場合もあります。現在のSmartHRのオンボーディングの定義は「従業員の情報登録が完了して、各種従業員がログインすること」までとしています。

最低限この状態を作ることができなければ、SmartHRの基本サービス自体を利用できないからです。この状態は非常に初期段階ですが、データから次のアクションを明確にするための定義としては最適だと判断しています。

ここから次のステップを「活用」とし、それぞれのお客さまの動きを計測しています。ただ、年末調整の時期は特別です。SmartHRを年末調整の時期にはじめて導入いただくお客さまについては導入フローが通常と異なります。それに伴い「オンボーディング」のステップも変更しています。

そのほか、注意点としてはエンタープライズのお客さまの場合も状況が異なる場合があることです。標準で設けている定義が必ずしも当てはまるわけではないので、担当CSMが把握している定性情報と活用データを照らし合わせながらオンボーディングが完了したかどうかを判断しています。

基本的には、利用企業の全従業員の8割が設定を完了していれば問題ないという認識で揃えています。まずはオンボーディングを完了させ、次のアクションに移ることが大切です。

――オンボーディングが重要なんですね。SmartHRでは、オンボーディングを代行されていた時期もあったそうですね。

はい。設定代行を行っていた時期もありました。代行していた頃はプロダクト的に足りていない部分もあり、製品を使うためのマニュアルも不十分だったため、お客さまご自身で設定が難しい場合には弊社がその作業を代行していました。

特に初期に限った話ではあるのですが、お客さまの次の課題を早く見つけるためにもオンボーディングの代行は必要でした。しかしその後、活用状況をデータで可視化した結果、その後の活用が進んでいないという事実が分かり設定代行を止める決断に至ります。

設定を代行することで、お客さまご自身がプロダクトに慣れる機会を奪っていたことが原因だと気付きました。SaaSのサービスは、お客さまが自走していけることもメリットの1つです。提供側が手取り足取りサポートしなければ使えないものだとしたら、それはインターネットサービスとしても価値の低いものになっている証拠です。

「お客さまが自走できるか?」という視点でプロダクトフィードバックを行い、コンテンツを用意し、カスタマーサクセスの質を向上させていく取り組みを行うことが重要だと思います。

ヘルススコアは「毎月使う」「毎月使わないが重要」の軸で分類

――オンボーディング後の顧客管理についてはどのようにアプローチしていますか。

活用フェーズに入ると、CSMの活動状況・ヘルススコア・リスクデータの3軸でお客さまの状態をチェックしています。

お客さまの活用状況を観察することでお客さまのつまづきにいち早く気づいて対応することや、解約リスクを事前に低減させたりすることが可能となります。

――ヘルススコアはどのように定義していますか。

実はヘルススコアは常に試行錯誤しながら再定義を繰り返しているのですが、定義のポイントのひとつに「毎月使う機能」と「毎月は使わないがSmartHRとして重要な機能」といった2軸を意識することが必要だと考えています。

SmartHRの中での例を具体的に挙げると、「毎月使う機能」の1つとして「給与明細を配布する機能」があります。給与明細の配布は毎月発生する業務なので、この機能が利用されなかった場合はお客さまが給与システムを乗り換えた、あるいは給与計算業務をアウトソースした可能性が予測されます。

もう一方の「毎月使わないが、SmartHRとして重要な機能」としては、「年末調整」があります。これはSmartHRの中でも最も価値を感じていただけるコアな機能ですが、もし仮に昨年は利用されていたのに今年は利用されていないとなると、弊社としては厳しい状態であると言えます。

ヘルススコアが芳しくないお客さまには、こちらからアプローチして定性的な面からも状況把握に動いています。ヘルススコアから見えてくる活用データと、実際にCSMがお客さまとの会話の中で感じたリスクをSalesforceで管理しています。

最近は、コロナ禍によるリスクもあります。そのような状況についても同様に管理できるように進めています。

――どのようにして、リスク回避を行っていますか。

例えば、年末調整機能の利用に関するリスク回避としては、年末調整を行う前にこちらからご連絡を差し上げています。「今年もSmartHRを使って年末調整されるご予定でしょうか?」とお客さまにヒアリングをしています。

機能を使うかどうか検討する適切なタイミングでお客さまとコミュニケーションをとることもカスタマーサクセスの仕事の1つです。年末調整が終わりお客さまの状況が落ち着いたタイミングで年末調整機能に関するフィードバックをいただく機会を設けます。その結果から、カスタマーサクセスとして新たにやるべきことの検討や、機能面の利便性向上に繋げるためのプロダクトフィードバックを行っています。

またお客さまの声からニーズを正確に把握することで、新たなアップセルプロダクトの開発にも繋がってきます。お客さまの声を基にすることで「売るための機能」ではなく「お客さまの成功のための機能」をリリースすることができます。プロダクトフィードバックはカスタマーサクセスの重要な役割であると考えています。

カスタマーサクセスを根付かせるには企業文化が大事

――最後に、カスタマーサクセスをイチからつくりあげる上で大事なことは何か教えてください。

なによりも会社全体でカスタマーサクセスの概念や重要性を理解した上で連携することが大切です。SmartHRでは社内の会話やSlack上のコミュニケーションの中でも「サクセス」という言葉や絵文字が普段使いされています。また、マーケティングやセールスなど別の部署から「現在検討中のマーケティング施策が既存のお客さまに及ぼす影響はないか?」といったような意見を求められることもあります。

全社的に「お客さまの成功」を考えていく文化を作ることは、良いカスタマーサクセス組織をつくる上で欠かすことができません。カスタマーサクセス組織を新たにゼロから立ち上げる場合には、社内の理解を得にくいこともあるかもしれませんが、CS組織の中に閉じこもることなく、社内外に自分たちの取り組みを発信し、情報をオープンにすることで理解や信頼を得ていくことができると思います。

プロダクトをより良くするためのヒントはお客さまから得ることができます。会社全体でカスタマーサクセスを意識し、常にお客さまの課題と向き合う姿勢を持つことが大事でしょう。

(取材・構成:馬本寛子)

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