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VCが評価する3種類のリスク「プロダクト・ヒト・時間」

「ベンチャー・キャピタル」(VC)に含まれる「ベンチャー」という言葉の原義からすれば、VCは冒険的でリスクのあるビジネスに対して資金を提供するのが仕事です(詳しくは、こちらの記事をご覧ください)。では、VCから見たリスクには具体的にどんなものがあるでしょうか?

リスクの評価は投資家やVCごとに異なりますが、ここではシードラウンドのVCで一般的だと思われるリスクを大きく「プロダクト・ヒト・時間」と3つに分けてご紹介します。リスク評価は投資判断だけでなく、バリュエーションと、その交渉にも大きく影響しています。

(1)プロダクトに起因するもの

プロダクト・リスク:本当にプロダクトを作れるか?

SaaSにしろハードウェア製品にしろ、まだプロダクトが構想段階だったり、プロトタイプの場合、投資家が真っ先に考えるのは「果たして正式版リリースにこぎつけるだろうか?」「良いプロダクトを作れるだろうか?」という点です。

例えば、過去にネット系企業で一緒に働いていたことがあるエンジニアとプロダクトマネージャーの2人が創業メンバーだとしたら、自分たちが作りたいもののイメージや使うべき技術、おおよその開発期間も正しく見積もっている可能性が高いでしょう。

一方、ビジネス系の起業家がまだエンジニアのメンバーを仲間に入れられておらず、プロトタイプも存在していない場合には、それだけリスクありと判断されることになります。

PMFリスク:PMFに到達するか?

PMF(Product Market Fit)は作ったプロダクトが想定ユーザーに刺さり、課金できることが分かった状態です。狙い通りのプロダクトが作れてもPMFを達成できるかどうかは、また別です。初期の想定と異なり、狙ったユーザー層と違うところに大きなニーズがあることが分かって、そちらにピボットしてPMFすることも良くありますから、当初の計画通りである必要は、必ずしもありません。ただ、想定した領域で2度、3度とアングルを変えても、そもそもその事業領域に十分なニーズがないと分かることもあります。

実際にプロダクトを作り、マーケティングや営業をしてみなければ分からないこともたくさんあります。シードVCでは、積極的にこのリスクを取るVCの方が多いでしょう。作ってみたら顧客獲得のマーケティングコストが高すぎてユニット・エコノミクスが合わないということもあり得ます。これはPMFリスクというよりもビジネス・モデルにまつわるリスクかもしれません。

多くの投資家は、PMF達成の蓋然性を、既存製品や市場、マクロデータの分析、潜在ユーザーのヒアリング調査といったことで推定しています。

市場リスク:TAMは十分に大きいか?

プロダクトではありませんが、TAM(Total Addressable Market)についても一定の基準で概算するベンチャーキャピタリストが多いと思います。VCのビジネスモデルは、こちらの記事でご説明している通りハイリスク・ハイリターンの事業への出資です。隣接領域への横展開、あるいは海外展開なども勘案して、VCのファンド出資者へ約束しているリターンを出すために必要な事業規模でのイグジットがあり得るかどうか、ということを多くの投資家は見ています。

このほかVCが見るプロダクト・市場に関連するリスクとしては、規制が変わってビジネスが困難になったり、そもそも違法性を問われる法的リスクなどもあります。

(2)ヒトに起因するもの

仲間割れリスク

一般に思われているより頻度が高いのは、創業メンバーの間に感情的なわだかまりができて停滞したり、決別するリスクです。多数の起業家、創業メンバーを見てきた投資家は、メンバー間のコミュニケーションの様子や、ケミストリー、株式の比率などを見ているものです。

エグゼキューション・リスク:組織や文化をつくって行けるか?

組織や文化をつくり、継続して事業を成長させることができる経営者であるか、そうした経営者に成長していくだけの経験やスキルやパッションを備えているか、という観点でのリスクです。多様な人材を巻き込み、活躍できる場をつくっていけるかも重要です。事業で海外展開を想定している場合には、マルチカルチャーの組織を作れるか、創業チームに語学力は十分といったこともエグゼキューション・リスクに含まれます。

(3)時間に起因するもの

タイミング・リスク:市場参入は今なのか?

大きな事業機会があったとしても、市場参入のタイミングが違えば、チャンスを逃すこともあります。特に技術系のスタートアップは数年単位で早すぎることもあり得ます。

イグジットまでにかかる時間のリスク

ビジネスの性質上、事業成長に長い時間がかかる種類のものがあります。VCファンドは一般的に10年が満期なので、一定期間内にイグジットできる見通しがつきづらい場合にはリスクと考えられます。ただ、こうしたビジネスは往々にして黒字化して少しずつ成長するビジネスであることが多く、むしろVC投資より、銀行借入れなど資本コストの安い調達方式のほうが適していることが少なくありません。また、一部の研究開発型スタートアップに積極的に投資するVCは、このリスクを取れるようにするために、ファンド満期を通常の10年よりももっと長く取ることもあります。


VCが評価するリスクを列挙してきましたが、これはVCがリスク回避的であるということではありません。VCのファンドは起業家と違ってポートフォリオを組むことでリスクを分散できますから、むしろリスクを取るのが前提です。ただ、個別投資に関して、どういうリスクをどの程度取っているのかという問いに対して、VCはきわめて自覚的です。それが機関投資家から資金を預かって投資をしている責務でもあるからです。

念のために付け加えておくと、VCがリスクを分散できる一方で、起業家は数年から10年、あるいはそれ以上という長期に渡って特定事業の立ち上げのリスクを背負います。言葉の定義の違いもありますが、VCが取るリスクは、起業家が取る人生を賭けるようなリスクの取り方とは本質的に違うということも言えるかと思います。

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Partner @ Coral Capital

Ken Nishimura

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