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非エンジニアの起業家が創業時にコードを書く説得力

Coral Capitalで投資を決めるときの基準の1つに、チームに優秀なエンジニアがいるかどうかということがあります。創業メンバーが優秀で事業ドメインやビジョンが優れていても、エンジニアがいないチームに投資することは基本的にありません。ごく初期のプロトタイプは別として、アプリやシステムを外注しても良いテクノロジービジネスが作れるとは考えづらいからです。
創業者自身がエンジニアだったり、プログラミングが得意だったりする必要はありません。米国テック企業を見てみると、Microsoftのビル・ゲイツ氏やNetflixのリード・ヘイスティング氏、Facebookのマーク・ザッカーバーグ氏、Dropboxのドリュー・ハウストン氏のようにトップエンジニアからも一目置かれるような「スーパーハッカー」の起業家もいれば、故スティーブ・ジョブズ氏やジェフ・ベゾス氏のように自らはコードを書かない起業家もいます。Googleのラリー・ペイジ氏のように研究者肌で、プログラミング自体はあまり得意ではなかったと言われるケースもあります(初期のGoogleエンジニアの証言としてGoogle共同創業者の2人をコーダーとしては信用していなかったというものがあります)。

プログラミングを学んでプロトタイプを作った起業家たち

デジタルの力で大きなインパクトを生むためには優秀なエンジニアの力が欠かせません。では、プログラミング経験のない起業家は、どうやって優秀なエンジニアを巻き込んでいけばいいのでしょうか。
いろいろな方法があると思いますが、自らコーディングを学んでプロトタイプを作ってしまうという手があります。
例えば、昨年2020年12月に上場を果たしたFintechスタートアップのWealthNavi創業者の柴山和久さんが、そうでした。創業間もない2015年6月、スタートアップイベント「IVS」で会場間を移動する廊下をそぞろ歩きながら、当時記者として参加していた私に柴山さんはプロトタイプを見せてくれたのでした。それは資産運用シミュレーションのグラフで、複数の曲線が滑らかに立ち上がるようなものでした。そのときの配色や動きは、現在のWealthNaviのアプリそのままのように思います。柴山さんは5週間のプログラミング合宿に参加してコーディングの基礎を学び、人に見せられるプロトタイプまでを自ら作ったのでした。そこまでやって初めてエンジニアの人たちは聞く耳を持ってくれるのだと熱弁しながら、いろいろな人に画面を見せて歩いていたのでした。その半年後にWealthNaviは約6億円を資金調達し、約1年後の2016年7月にサービスをローンチ。5年後に上場しています。
Wantedly創業者の仲暁子さんも、初期プロトタイプを自分で書いた起業家として知られています。Ruby on Railsの解説書をボロボロになるまで読み込み、動くところまでアプリを1人で作ったそうです。2011年のことです。Wantedlyのエンジニア募集ページには、今でも当時仲さんが使った書籍の写真が掲載されています。仲さんの書いた初期のコードは、プロの目から見ると新鮮な驚きのあるものだったと聞いています。年賀状でいえば、宛名の「様」の下に切手が貼ってあるような斬新なスタイルで、ちゃんと動く(届く)ものの、「そうじゃないんですよ」と頭をかくようなものだったそうです。ボロボロの参考書を手にした起業家が書いたコードが、プロとしては直さずにいられないものだったとしたら、これはもう専門家として助けたい、一緒に戦ってみようと思うのではないでしょうか。

ほかにも日本だと楽天の三木谷浩史さんや、メルカリの山田進太郎さんも初期にはコードを書いていたことで知られています。
2021年の今のスタートアップは10年前や20年前と比べると取り組むビジネスやアプリの複雑さが増しているかもしれません。それでも、自らやれるところまでコーディングをやってみるというのは、エンジニアを巻き込む方法として有効ではないかと思います。本気度を示す意味でも、アルゴリズムやデータの持ち方、UIUX設計、開発ツールやプロセスに対する洞察を身に付けるという意味でも有用だと思います。実際に自分でやってみて複雑さや奥深さを知ってから専門家に頼る場合のほうが、専門家に対する本当の敬意が生まれて良い協力関係が築けるのではないかと思うのです。1人目に採用する優秀なエンジニアを見きわめるときにも、きっとプラスになることでしょう。

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Partner @ Coral Capital

Ken Nishimura

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