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VC業界は「ビジネスモデルの再構築」へ グロービス高宮 × Coral James対談

2019年3月、500 Startups JapanはCoral Capitalへとリブランディングを行いました。これは共同創業者であるJames Rineyと澤山陽平が密に話し合い、そのほかの投資家やVC業界の方々にも相談しつつ進めた大きな決断でした。

その「リブランディングを相談していたVC業界の方々」の一人に、GLOBIS CAPITAL PARTNERSの代表パートナーである高宮慎一さんがいます。Jamesにとって、高宮さんはメンターのような存在。リブランディング以前から、VC事業について相談することも多かったといいます。

では、そんな2人が今のような関係になったきっかけは何だったのでしょうか。また、Coral Capital(以下、Coral)のリブランディングを聞き、高宮さんが感じたことは?

プロフィール

高宮 慎一(Shinichi Takamiya)・・・グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー。戦略コンサルティング会社アーサー・D・リトルにて、プロジェクト・リーダーとしてITサービス企業に対する事業戦略、新規事業戦略、イノベーション戦略立案などを主導した後、2008年9月グロービス・キャピタル・パートナーズ入社、現在に至る。IT領域の投資を担当。東京大学経済学部卒(卒論特選論文受賞)、ハーバード大学経営大学院MBA修了(二年次優秀賞)。2018年Forbes日本版MIDAS LIST 最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング1位。

James Riney(ジェームズ・ライニー)・・・Coral Capital創業パートナーCEO。VC以前は、STORYS.JP運営会社ResuPress(現Coincheck)の共同創業者兼CEOを務めていた。その後、DeNAで東南アジアとシリコンバレーを中心にグローバル投資に従事。2015年に500 Startups Japanを立ち上げ、代表兼マネージングパートナーに就任。2016年にForbes Asia 30 Under 30 の「ファイナンス & ベンチャーキャピタル」部門で選ばれている。


きっかけはJamesのブログ

James:高宮さんと話すようになったきっかけは、僕のブログだった気がします。僕が書いたブログに、高宮さんが「ここはこういう表現のほうがいいんじゃない?」「ここへの言及は気をつけたほうがいい」などアドバイスをくれたんですよね。

高宮:そうでしたね。英語から日本語への翻訳は微妙にニュアンスを変える必要があります。特に、VC業界のような言語化が難しい世界をブログにしようとなると、それなりに表現を選ぶ場面もあるわけです。

James:当時、ちょうど日本語でのニュアンスをうまく掴めず悩んでいました。それに、僕自身が性格的にもわりとズバズバと言ってしまうタイプなので(笑)。高宮さんがアドバイスをくれたことはうれしかったし、ありがたかったです。

高宮:僕は帰国子女で、英語と日本語の翻訳をうまくできなかった時期がありました。夏目漱石でいうところの「I love you」が「月がきれいですね」となるように、同じメッセージでもあえて直訳せず、コンテキストに合わせて意訳した方がよかったりします。そのあたりの感覚は、僕も苦労したので。

James:高宮さんにも、そんな時代があったんですね。

高宮:ありましたね。あと、僕は「自分はVCとして後発」という意識を持っています。そのなかで、どうやってほかのVCと差別化すべきかを手探りしながらやってきた経緯があります。

James:VC個人としてのブランディング、ということですね。

高宮:そうですね、見え方としてはブランディングですが、本質的には実体としての差別化のポイントをどうつくるかということだと思います。僕はコンサルティング出身。なので、例えばソーシャルゲームが立ち上がったばかりのとき戦略オプションのフレームワークを記事にしたり、組織開発、ファイナンスなど、スタートアップ業界全体に関わるセオリーを発信したりしてきました。また、インターネットが好きだったので、起業しようと思ったこともあり、起業家に近い感覚を持っています。また、VCのなかではプロダクトについて語れます。そのため、「1つの要素でドン!」というより、細かい様子をいっぱい掛け算しながら、自分ならではの差別化ポイントをつくり上げていったイメージです。

お金がコモディティ化するなか、VCに求められる「差別化」

James:今回のリブランディングは共同創業者である澤山と話し合いを重ねてきた一方で、投資家やVC業界の方々にも相談していました。高宮さんにも、相談に乗っていただいていたんですよね。

高宮:僕はあくまでも第三者として、または友人として壁打ち相手になっていたつもりでしたが(笑)。Jamesの話を聞いていて感じたのは、本家500 StartupsとJamesたちの500 Startups JapanがWin-Winな関係であれば、いいかたちで永続する。逆に、Win-Winでないのに無理に続けるとどこかで歪みが出てしまうのでは、ということでした。

James:設立当初は、500 Startupsのやり方を日本に落とし込みながら投資などを行っていました。しかし、試行錯誤を続けるなかで、本家の戦略と日本でとるべき戦略に少しずつズレを感じ始めたんです。

高宮:500 Startupsであれ、ほかの海外VCであれ、最初は本家のブランド力で戦うことができます。しかし、それがずっと続くか言うと、状況次第というところがあります。VCは、すごくローカル性が高い事業だと思っています。というのも、日本の起業家や大企業、他の投資家とのネットワークのど真ん中に入り込まないといけない。また、投資先を支援するにしても、ある程度は物理的に近くにいなければならないし、そのマーケットのことや商慣習についても知る必要があります。これはVCとしての成功の鍵とも言える部分です。一方で、最初は一緒にやっていた仁義もあります。そのあたりを総合的に考える必要はあるんじゃないかなぁと思います。

James:当時の僕らが考えていたのは、まさにそれです。そこで焦点になったのが、「起業家から500 Startups Japanがどのように認知されているのか」。起業家はファンドより「誰に投資してもらうか」という個人ブランドを重視しています。そうすると、僕らもそういった認識をしてもらうブランディングをしたほうがいいんじゃないかと感じました。

高宮:今の日本のVC業界はアベノミクス以来の政府の後押しもあり、シードからレイターの手前では大量にお金が流入しいます。つまり、お金は完全にコモディティ化しマーケットが混み合ってきているんです。「お金以外」の価値をどう出していくか、そこでどう差別化するかが、VCに求められている状況です。

James:そうですね。Coralでは「ファイナンス」「PR」「採用」「コミュニティ」の4つのサポートを投資先企業に提供しています。それもオペレーションに関してはすべて仕組み化していて、僕や澤山でなければならない場面も極力減らしています。ファイナンスや採用、PRなどに関しても、ファンクションごとの担当制にしています。今後はこの4つの基軸を強化させるかたちで、差別化なども進めたいと考えているのです。

VCとして成功するための3つの要素

James:僕の感覚として、今後はVC業界でGPを目指す人が増えるんじゃないかと思っています。それについて、高宮さんはどう思いますか?

高宮:そうですね。先ほどもお話したように、多くのお金が流れ込んできます。新たなファンドも増え、倍々ゲームでVCのファンドレイズ総額も増えてきています。その点、業界の裾野は大きく広がり、5年前だと資金供給側のボトルネックで、nanapiがシリーズAを調達した時は3億円集めただけですごいと話題になりました。

James:アメリカだったら、3億円はシードラウンドみたいな(笑)。

高宮:そうそう(笑)。そういう意味では、最近スタートアップおよびVC業界のステージが、1つ上がったと思っているんです。メルカリのように、1つのラウンドで数十億円集められるようにもなりましたし、上場までに累積で百億円以上集められるようにもなりました。また、資金供給の安定性という意味でも、すでにファンドが集まっているので、投資が完全にストップすることもありません。リーマンショックのときのように、日本のVCの投資が完全にストップし、蛇口がしまってしまう状況にはならないと思います。

James:そういう意味では、今のVC業界は外から見ると華々しいイメージがあるかもしれませんね。

高宮:そうですね。VCはスタートアップに向き合い、伴走者として支援する側面がクローズアップされることが多いです。それが華々しく映るのかもしれません。そして、それを見て「僕もVCをやりたいです!」と言ってVCを目指してくれる人が増えるのもいいことだと思っています。

James:確かに。

高宮:でも、VCには投資家の資金をお預かりして、ファンドを運営して、きっちりと投資家の期待するリターンをお返しするという側面もありますよね。なかなか外からは見えにくいところですが、金融事業者として、運用受託者責任、ガバナンス、コンプライアンスなど「ちゃんとすること」が求められる部分。そして、さらにVCというスタートアップの経営者としての側面もあります。3つの要素をすべて成立させ、バランスさせることも求められます。

James:それに、VC事業そのものがすぐに結果の見えるものでもありません。

高宮:そうなんですよね。アーリーから投資した場合は5〜7年、ミドル以降から入ったとしても数年はかかります。ファンドに関しては、1本すべて見ようと思うと10年かかります。すごく長い期間ロックインされてしまう職業でもあるので、コミットメントやパッションがないと正直つらいと思います。逆に、そこさえクリアすれば、好きこそものの上手なれ、こそが大事です。

James:個人的に思うのは、僕はもともと起業家で、その後VCになりました。投資してリリースして…という表側はとても楽しそうに見えますよね。しかし、裏側ではゴリゴリとファンドレイジングの営業をしていたり、マネジメントや戦略を考えつつ、マーケティングや採用も進めています。実は、地道にやるべきことがとても多いという(笑)。

高宮:これは日本でくり返し起こってきたことですが、ベンチャーブームが起こり、去るころには「やっぱりベンチャーはダメだった」みたいな雰囲気になっていました。さすがに今のスタートアップに関しては、一過性のブームでなく、まぎれもなく大きな流れになっているとは思います。しかし、VC業界は、スタートアップより一周遅れているところもあります。今、VCブームが起こっているならば、「やっぱりVCはダメだった」と言われるような結果にしてはいけない。僕らVC自身がスタートアップや投資家、世の中に対して、不可欠な価値をあしていかなければならないのです。

VC業界の次のフェーズは、ビジネスモデルのイノベーション

高宮:既成概念にとらわれると、VCの提供価値は「スタートアップに資金を供給すること」となります。しかし、原点に立ち返ると、VCが本当のメガベンチャーや産業をつくるために必要なのは「スタートアップがスケールするための支援をすること」です。では、スタートアップにとって一番勝ちある支援とはなにか? お金がコモディティになってきたならば、資金面の支援は相対的に価値として低くなり、一方で事業面での支援がよりクリティカルになります。そうすると、資金供給をコアに、バリューアッド(付加的な価値)で事業を支援し続けてきた従来のVCのビジネスモデルにも限界が見え始めているんです。だからこそ、僕らVCは、ビジネスモデルのイノベーションを起こす必要があります。

James:それは、僕も感じます。

高宮:また、「VCのグローバル化」という大命題も抱えています。先ほど話にも出たように、VC事業の特性としてローカル性が高いです。そのため、今までのVCはまずしっかりローカルに根ざし、その市場のリーダーを育てることでリターンを出してきました。しかし、一社で産業をつくりあげるようなメガベンチャーを生み出すには、グローバル展開のサポートも欠かせません。VC事業そのものはローカルなのに、ホームランを打つには投資先のグローバル支援をしなければならない。ローカルとグローバル、この二面性を両方共満たす必要があるのです。

James:グローバル展開では、国内の投資家と同時に海外投資家のお金を呼び込みながら「日本発スタートアップ」をつくる必要があります。そうすると、これまで重視されていたローカルだけでは難しいです。

高宮:メルカリは上場前にアメリカで一定の足掛かりをつくりました。それもあり、日本のスタートアップ業界で「悲願のグローバル展開」を目指す流れは強まっています。では、僕らはVCとして、どのように投資先のグローバル化を支援し、僕ら自身のグローバル展開を進めていくのか。グローバル化の観点からも、僕は今、VCのビジネスモデルを組み替えるタイミングなんじゃないかと思っています。

James:大きな転換期ですね。

高宮:投資先企業に対してどうやってバリューを拡大させていくか。投資のあり方をどうしていくべきか。そもそも、VC事業の目的をて、産業を育て、メガベンチャーを育てることを目的とすると、「投資する」「経営レベルでの価値向上」はHowにすぎません。そのHowに固執していると、時代の移ろいとともに陳腐化してしまいます。だからこそ原点回帰し、メガベンチャーを育て、産業を育てるためにどうすべきかを、ゼロベースで考えるべきなんじゃないかと感じています。

James:おっしゃるとおりですね。

高宮:先ほどお話ししましたが、僕は自分のことを「VCとして後発」だと思っています。ラッキーなことにVC業界に飛び込んだ数年後に、ちょうど業界自体が立ち上がり、今はいよいよ大きく成長していこうというタイミングです。次の世代のVCは、VCのビジネスモデルのイノベーションに真正面からチャレンジすることになります。VCというスタートアップの経営者としては、それはとてもおもしろいチャレンジですよね。

James:そのなかでは、ますますVCの取捨選択が進みそうです。厳しい局面を迎えようとしていますが、だからこそ生き残るには、高宮さんも話していたコミットメントやパッションを持てるかどうかが重要になりますね。

高宮:そうですね。僕らもVCも起業家マインドを持ち続けるのは大事です。そして、投資家からお金を預かり、投資している立場としての責任感も忘れてはいけません。投資先企業への投資は投資家からお預かりしているお金ですし、事業をやっている主体者でもありません。変な勘違いをして、「お金を出している」という上から目線になったり、起業家に自分の意見を押し付けたりしてはならない。あくまでも、起業家そのものが世の中で一番希少で価値がある資源なので。僕たちVCは黒子であり、月。「Entrepreneur Behind the Entreprenerur=起業家の背後にいる起業家」であるべきなんですよね。


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Editorial Team / 編集部

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