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青果店経営から見えた課題―、kikitoriが取り組む農業流通SaaSとは?

「まずファックスを買ってくださいと言われたんです」

そう苦笑いするのは、SaaS系スタートアップでありながら自社で4店舗の青果店(八百屋)も経営するkikitori創業CEOの上村聖季さんです。農産流通特化型SaaSの「nimaru」を開発・運営するにあたって青果店を始めた際、まず必要となったのがファックスだったと言います。

自社で4店舗青果店をやる中で見えてきた課題

何かの業界のDXをするスタートアップで現場の深いところに分け入る起業家は少なくありません。実際に業界構造を理解したり、現場で働く人々に話を聞くためです。

「農業流通をアップデートする」というミッションで起業した上村さんは、現場に行くだけにとどまらず、実際に卸売市場で買参権を保有し、東京・文京区で自ら青果店を4店舗経営しています。

「自分たちで青果店をやって課題が見えてきました。仕入れのために、まずファックスを買ってくださいと言われる業界なんですね。卸売市場に行っても担当者も24時間ずっと電話に張り付いていて話しかけることすらできないような状態。各段階の流通事業者の間でデータ連携がなく、電話やファックスでやり取りしているんです。流通の最上位にいる生産者からの情報もアナログなので、そうしたアナログの情報を処理するための流通現場業務の負担は大きく、流通現場の人材離れは深刻です」(上村さん)

上村聖季(うえむら・まさき)。株式会社kikitori CEO。1987年5月17日生まれ。名古屋大学経済学部経営学科卒業。総合商社双日株式会社の石炭部で3年間、海外との石炭トレーディングに携わった後、2014年3月に同社を退社。タイ、インドネシアを中心に8か月間、ASEAN諸国における農業を視察・滞在。帰国後、2015年3月に株式会社kikitoriを設立。

食の流通といえば、産直流通系のC向けサービスが良く話題になります。生産者と消費者が直接やり取りできる温かみのあるサービスとして人気です。一方でそうした産直流通が流通の全体に占める割合は1割程度であり、今も国産青果物の流通の8割は農協と卸売市場による流通。産直流通の事例がメディアに取り上げられがちですが、この割合はこの20年間をみてもずっと変化がないままだと言います。

「デジタル化は遅れていますが、働き方改革という流れは青果業界にも来ています。朝4時に市場に行って、夜遅くまで働く。それを当然としてやってきた業界に対して、若い人を中心に離職が進んでいます」(上村さん)

3月、4月にはコロナの影響で、都内スーパーなどの店頭から生鮮食品がなくなるといった状況も発生し、社会を支える食のインフラの重要性を再認識させられる事態にも。

「量販店などの台頭により、野菜や果物の流通も、一昔前の当日取引から、事前に出荷先や価格などを決める事前取引が主流となっていることから、卸業者や仕入れ関係者は、生産者から出荷される野菜や果物の情報を事前にキャッチする必要が出てきています。ところが、流通現場では今だに一昔前のように、野菜やくだものが届いてから販売先を決めるやり方を続けていて、関係者全員が疲弊するケースが多くみられます。その場合、生産者側にとっては、販売価格が安値になりやすく、仕入れ側にとっては仕入れが安定せず、双方にとってデメリットが生じます。そうした流通現場を間近で見る中で、既存流通の良い仕組みを残しつつ、新しいやり方を取り入れることで、食流通全体を良い方向へ変えていけないかと思ったのが創業のきっかけです」(上村さん)

生産者が継続的に使ってくれるメリットを

農業流通特化型SaaSの「nimaru」は、出荷する生産者に対して2ステップの入力で完結する画面を用意することで電話やファクスより手軽な手段を提供しているといいます。

「生産者ごとに専用の品目や規格を用意することができるため、生産者は、品目を選んで、予め用意された規格のボックスの中に数字を入れるだけで、日々の出荷情報をデータで簡単に出荷先の流通事業者へ連絡することができます。また、nimaruはLINEを窓口として利用することができるため、リテラシーが高くない生産者でも簡単に利用することができます。さらに、nimaruの特徴はその使いやすさだけでなく、流通事業者の既存の基幹システムと連携が可能で、販売単価の情報を日々生産者へ自動的に配信するなど、生産者が継続的に使ってくれるメリットをしっかりと作り出す点にあります」(上村さん)

日々の業務をデータでやり取りするようDXしていくことで、過去12か月で約23万ケース分の青果取引をデータ化することに成功。流通の最適化をしているといいます。

業界で長年難しいと考えられてきた生産者による出荷情報のデジタル化において、実績を地道に積みあげてきた結果、青果流通で大きな役割を占めるJAグループもnimaruに注目。同グループが運営する指名型アクセラレータで採択されるなど、事業連携の話も進んでいます。

これまで流通経路の「上流」のデータは誰も持っていませんでした。この部分がデータ化するからこそ取り組める農業生産領域周辺のリアルなサービスの提供や、需要とのマッチング最適化なども視野に、今後は開発を進めるそうです。

※情報開示:kikitoriはCoral Capitalの出資先企業です。

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Editorial Team / 編集部

Coral Capital

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