【ピッチコンテスト】書類選考のポイントは? 審査員に聞いてみた

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Written by 澤山 陽平, Ken Nishimura, 増田 覚
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スタートアップがピッチイベントで名を上げることは、資金調達や採用などの面で有利に働きます。とはいえ、知名度の高い大会ともなれば、書類選考の倍率は10倍を超えることも。狭き門を突破するには、書類だけで審査員に好印象を残さなければなりません。

これからピッチコンテストに挑むスタートアップは、書類を応募する際にどんなことを意識するべきなのでしょうか。数多くのピッチ大会で審査員を務めてきたCoral Capitalの澤山陽平と西村賢が書類選考のチェックポイントを解説します。

澤山陽平(左)は2016年からTechCrunch Japan主催「スタートアップバトル」の書類審査員を担当。ICCサミットの「スタートアップ・カタパルト」での審査員経験も。元TechCrunch Japan編集長の西村賢(右)は2013年から2017年までスタートアップバトル審査員長を務めたほか、CVC主催ピッチイベントなどでの審査員経験も。

1:補足資料に頼らずにテキストだけで勝負する

澤山:まず前提として知っておいてほしいのは、審査員は限られた時間で大量の応募書類に目を通しているということです。

コンテストによっては、書類のほかに事業説明用のスライドやデモ動画などの補足資料を受け付けていますが、審査時間の関係上、すべての補足資料に目を通すのが難しいときもあります。

西村:審査中に補足資料を見る場面って限られますよね。エントリー数が多い大会だと、当落線上のスタートアップが何社かあって、それらを比較するときだけ見たりとか。なので「審査員は書類だけを見て判断している」と考えたほうがいいかもしれません。

澤山:テキストだけで勝負することが大事ですよね。だからといって、あれやこれやと書けばいいわけではなく、自分たちのセールスポイントを簡潔に説明したほうが審査員の印象に残りやすいと思います。ちょっとポジショントークっぽく聞こえるかもしれませんが、著名なVCから出資を受けていることをアピールするのも、審査員の目を引くポイントのひとつですね。

2:審査員の印象に残りやすいのは「逆ピラミッド型」の構成

西村:テキストだけで勝負するという点では、説明の順番が大事ですよね。応募書類を読んでいても、冒頭から業界の課題が延々と書かれていると、プロダクトの内容が頭に入ってきにくかったりします。最後まで読んでも「結局何をやってるんだっけ?」となってしまい、印象に残らないというか……。

そうならないためにも、まずは「自分たちは○○をやっています」から始まり、それから「なぜならば〜」と説明したほうが審査員の記憶に残りやすいのではないでしょうか。

新聞の書き方と同じで、見出しや最初の1文を読むだけで記事の内容の半分以上が伝わることを意識する。残りの文は補足説明にあてるような、「逆ピラミッド型」の構成がいいと思います。

3:引いた立場の人に見てもらう

澤山:投資先スタートアップの応募書類を添削することもあるのですが、他人に見てもらうのは大事ですよね。起業家は事業にすごく集中しているので、その分野のことは「誰でも知っている常識」と思い込んでしまいがちなので。

その結果、説明不足になってしまったり、逆に細かすぎる部分の説明に力を入れてしまったりすることがあります。岡目八目じゃないですが、応募書類を書いたあとは、ちょっと引いた立場の人に見てもらうのがいいと思いますね。

4:事業をひと言で表す「タグライン」を作る

西村:どんな順番で説明するかに加えて、もう1つ大事だと思っているのが、自分たちの事業をひと言で表す「タグライン」を作ることです。

たとえば、荷物の一時預かりシェアリングサービス「ecbo cloak」がTechCrunch Tokyoのスタートアップに出場したとき、「50年変わっていないロッカーの革命」と言っていたのが印象的でした。

私が好きなのは、Airbnbが創業した頃に使っていた「Travel like a human(人間らしく旅をしよう)」というキャッチコピーなんですが、自分たちの事業をズバッと言い切れるとキャッチーですよね。まだタグラインがないスタートアップは、ピッチ大会のエントリーをきっかけに社内でディスカッションしてみるのもよさそうです。

5:実績は全面にアピールする

澤山:ピッチ本番のコツになってしまいますが、書類審査にも使えそうな「500 Startups」の教えがあります。それはトラクション(実績)→チーム→プロダクト→ビジョンの順番で優先順位を付けて説明すると、審査員の印象に残りやすいというものです。

500 Startupsのデモデイでは、事業をひと言で説明したあとに、いきなり「MRR is growing like crazy!(月次収益がめちゃくちゃ伸びてます!)」と実績をアピールするようなプレゼンをよく目にしました。

やっぱり投資家の審査員って、トラクションに惹かれるんですよ。書類選考はテキストだけで魅力を伝えなければならないので、すでに実績が出ているのであれば、それをアピールするのがいいと思いますね。

もしトラクションがなければ、チーム構成やプロダクトの魅力を全面に出す。プロダクトはまだこれから……というのであれば、「こんなに大きなことにチャレンジしています」と壮大なビジョンを語るのがよさそうです。

西村:トラクションが出ているかどうかは、投資家向けのピッチコンテストの審査員に刺さりそうな気がしますね。まだ実績が出ていないスタートアップが多い中で、トラクションがあると説得力があります。

6:ピッチコンテストごとに審査基準が変わることも

西村:ピッチイベントの審査基準は募集要項に書いてあるので、ちゃんと見ておくのが大事ですよね。イベントごとに応募資料をゼロから作るのは大変ですけど、審査基準に応じて多少カスタマイズしてもいいと思います。

私が審査員長だった頃のTechCrunch Japanでは、「市場性」「独自性」「将来性」の3つの軸で審査していました。USのTechCrunchもそうでしたが、メディアなので「記事にしやすいかどうか」という視点もあったように思います。一概には言えませんが、メディア主催のピッチイベントだと、ストーリー性や社会的意義を重視する傾向があるかもしれませんね。

澤山:市場性という点でいうと、仮説だらけの市場規模をアピールされても、現実性がないことは投資家視点でわかるんですよね。

身も蓋もない言い方になってしまいますが、絵に描いた餅の数字よりも「お金の匂い」のほうが大事。例えば、顧客単価で月100万円を獲得できるようなビジネスとか。単価がすごく大きく取れるのであれば、市場規模が何兆円とかマクロの話はどうでもいいじゃないですか。

西村:お金の匂いという点では、アップセルの可能性があるかどうかも大切ですよね。最初の顧客単価は低くても、最終的にもっと単価が上がるのであれば、その道筋を伝えたほうがいい。今はお金の匂いがしないというスタートアップでも、チャーンレートや原価率の低さをアピールするのも効果的だと思います。

7:目的から逆算してピッチ大会にエントリーする

西村:「あらゆるピッチイベントに出場しまくるんだ!」というのも考え方としてはありだと思いますが、最近では目的から逆算してエントリーするスタートアップが増えている気がします。

澤山:そうですね。資金調達に動き出すタイミングでピッチイベントに出場して注目を集めれば、投資家への説明コストも一気に下がりますし。優勝したら一気に投資家とのネットワークができて、資金調達にもつながります。カミナシがまさにそうでしたが、資金調達のタイミングから逆算してピッチイベントに出て、優勝して資金調達してましたよね。

西村:資金調達が目的であれば、シリーズAの調達に動く半年前くらいのタイミングでエントリーするのが効果的だと思います。その頃にはトラクションが出てきているでしょうし。

澤山:最近は「ピッチの勝ち方」を意識するスタートアップが増えてきたので、アイディアやプロトタイプしかないスタートアップが優勝するのは難しい時代になってきた気がします。だからこそ焦ってエントリーするよりも、資金調達や採用などの目的を定めて、アピール材料が揃うタイミングを図るといいかもしれませんね。

(語り:澤山陽平、西村賢/構成:増田覚)


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