【2022年上半期】海外の資金調達から読み解く、ヘルステックのトレンド

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Written by Miyako Yoshizawa
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スタートアップの資金調達環境が世界的に「冬の時代」に突入していますが、それはヘルスケア業界も同じことが言えます。2022年上半期における資金調達の件数や金額は昨年を大きく下回り、IPOの件数も0件でした。

私は毎年年末にヘルスケアスタートアップの資金調達をまとめてきましたが、今年は上半期だけでも大きな“異変”が起こっています。そこで今回は上半期における資金調達の状況を伝えるとともに、そこから読み取れるトレンドを考察します。

関連記事:海外の資金調達に見る「ヘルスケアテック」トレンド、調達リストも公開します(2021年の業界動向を解説した記事)

2022年上半期の傾向は主に下記の3つです。

  1. 投資件数、投資金額ともに前年を下回った。
  2. デジタルヘルスに対し、バイオの比率が増加した。
  3. アメリカ以外の国の件数が大きくなった。

1)投資件数、投資金額ともに前年を下回った。

今回の調査は、Andreessen HorowitzやFounders Fund、Sequoia Capital、Thrive Capitalなどの海外トップティアVCから資金調達したスタートアップの動向をとりまとめたものです。すべてのスタートアップの資金調達を網羅したものではなく、この基準は昨年と同様です。

調査によると、2022年上半期の資金調達は124件で、総額は69億9,600万ドルに上りました。投資件数と投資金額ともに前年同時期の132件、156億100万ドルを大きく下回り、特に投資金額が半減しました。

しかしながら2019年、2020年まで遡ると、2022年上半期の投資件数は微増、投資金額は微減でした。つまり、2021年はヘルスケアスタートアップへの投資が記録的に増えた年であり、現状は例年通りに戻ったという見方ができます。この傾向は、スタートアップ業界全体にも同じことが言えます。

イグジットに目を向けてみると、2021年上半期には6社がIPO、5社がSPAC上場していたのに対し、2022年上半期に上場したヘルスケアスタートアップはありませんでした。これらは上場株全体の低迷を反映しての結果と思われますが、ヘルスケア上場株がテック上場株の水準を大きく下回る可能性は低いと見ています。

その理由としては、リーマンショックや欧州債務危機のような景気後退局面でも影響を受けてこなかったヘルスケア上場株が、現在も同じ状況であると言えるためです。上場株の低迷はスタートアップの資金調達の中でも特にレイターステージに影響を与えますが、ヘルスケア分野における影響は相対的に見ると軽微だと考えられます。

2)デジタルヘルスに対し、バイオ比率が増加

2019年から2022年上半期にかけて資金調達した、ヘルスケアスタートアップの分野の内訳では変化が見受けられます。デジタルヘルス(オンラインソリューションを活用したヘルスケアサービス)分野に対し、バイオ(生物学的アプローチで診断や治療技術を開発する)分野の案件の比率が継続的に増加しています。2019年上半期はデジタルヘルスの調達62件に対しバイオは6件でしたが、2022年上半期はデジタルヘルス67件に対しバイオは57件と半数近くまでバイオが増えています。

その理由として考えられるのは、景気変動の影響を受けにくいという、バイオテックの特性です。リーマンショックなどの過去の不況時を振り返ると、VCによるスタートアップ投資が後退した際、バイオテックへの投資は比較的安定している傾向があります。今回もその傾向に沿った部分があることが推察されます。

しかしながら上場株の株価を見てみると、2021年末以降、バイオテックは他のヘルスケアやテック株の下落に先立ち大きく下落し続けています。前述の通り、スタートアップ投資が上場株の影響を受けることを考えると、今後バイオテックスタートアップの資金調達は厳しい状況になることが予測されます。

3)米国以外の案件の増加

2022年上半期の大きな特徴として、アメリカ・カナダ以外の国を本社とするスタートアップによる調達の比率が増えたこともあります。2021年上半期は北米のスタートアップが全体の9割を占めていましたが、2022年上半期は7割弱となっています。今年は特に中国のスタートアップが24社調達しており、存在感が増しています。

中でも特に大きく調達した中国企業の多くはバイオテック分野で、これは中国政府の方針の影響を受けていることが想像できます。中国政府は創薬などのバイオテック分野において、規制の整備と助成の拡大を通して市場の活性化を推進しています。

2022年上半期の海外のヘルスケアスタートアップ業界への投資金額は、過去最高だった昨年同期と比べると半減しています。しかしながら、低迷の中でもゲノムシーケンシング技術を提供するUltima Genomicsが6億ドル、細胞内タンパク質挙動のイメージング技術のEikon Therapeuticsが5.1億ドルを調達するなど、医薬品開発の支援分野での新技術に依然として大きな期待が集まっています。

日本においても内視鏡診断支援AIのAIMが80億円、デジタルセラピューティクスのCureAppが70億円調達するなど、ヘルスケアの中でも特にDeepTech分野で期待が高まっています。

以上が、2022年上半期に資金調達したヘルスケアスタートアップのトレンドになります。

私は2018年以降、毎年この分野の資金調達リストを集計しています。この分野の資金調達動向についてもっと知りたい方は、以下のツイートをRTしていただければ2022年上半期までのリストをDMいたします。

 

また、2018年から2021年までの資金調達の動向について知りたい方は、以下のツイートをRTしていただければリストをDMいたします。

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