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ネットの誤情報という難問:トランプの発言にフラグを付けるべきか?

ここ数週間、SNSに流れる誤情報にどう対処するべきかについて議論が白熱しています。そのきっかけとなったのは、SNSで誰よりも目立って誤情報を流布してきた人物の1人であるドナルド・トランプ氏です。トランプ米大統領はTwitterで、「郵便投票は不正の温床にほかならない」と主張しました。このツイートは、投票所における新型コロナウイルス感染リスクへの対策として、郵便投票の必要性が高まっていることに対して反応したものです。Twitterには有名人が拡散するコンテンツにラベルを付ける機能がかなり前からありますが、今回のツイートを受けてTwitterは彼のツイートの下に初めて「ファクトチェック(事実確認)」を促すラベルを表示しました。

これをチャンスと見て、Facebookの創業者であるマーク・ザッカーバーグ氏は、FOXニュース(トランプ大統領の支持者が最も視聴している放送局)を通して今回のTwitterの対応を批判し、テクノロジー企業は「人々がオンライン上で発言すること対する真実の裁定者であってはならない」と述べました。これに対してTwitterの創業者であるジャック・ドーシー氏は、すぐにツイートし、「今回の対応は、私たちを『真実の裁定者』にするようなものではありません 。私たちの目的は、相反する発言同士をつなぎ合わせ、論争中の情報を示すことで、人々が自ら考え判断するための手助けをすることです」と反論しました。このように、世界の2大SNSのリーダーたちが誤情報への対応について公の場で論争を繰り広げる事態となったのです。

表面的には、Twitterの対応は正しいことのように見えるかもしれません 。しかし、情報が間違っているなら、正しい情報へとユーザーを誘導する、という対応に含まれる編集的な判断は、実ははるかに深刻な意味を持っています。Twitterのこの対応は、何が正しく、何が間違っているかをソーシャル・メディア・プラットフォームが判断するべきだという考えを肯定するものです。これは取り返しのつかない方向へ向かう危険性をはらんでいます。

まず、想像以上に大変な労力を必要とする事態を招くことになるでしょう。もしトランプ大統領の発言を正すことをTwitterがよしとするなら、大きな影響力を持つ世界中の他の政治家たちに対しても同様に正す責任を負うことになります。これは手に負えないというだけではなく、一瞬にしてTwitterを政治的バイアスのかかったプラットフォームへと歪めてしまうでしょう。もちろん、このような方向に進むことをTwitterは意図していないでしょうが、彼らの選択の行き着く先として避けられない未来です。客観的であろうとした結果、真逆なことになっているのです。また、ドナルド・トランプ氏がおそらく史上最も「ファクトチェック」されている人物であることを考えれば、今回の行動に伴う犠牲はその対価にまったく見合っていないでしょう。

次に、どのくらいファクトチェックするべきかという問題があります。この問題は政治家だけに留まるものではありません。疑似科学から陰謀論まで、インターネットは誤情報にあふれています。もしこれらの話題に関するツイートに「事実確認をしてください」というラベルがついていなければ、正しい情報だという意味になるのでしょうか?掘り下げれば掘り下げるほど、問題が複雑であることがわかります。

誤解しないでいただきたいのですが、誤情報は実際に深刻な問題です。インターネットがもたらした最も画期的な変化の1つが、情報を管理する「門番」のような存在を取り除き、誰でも情報を発信できるようにしたことです。しかし、このパラダイムシフトは諸刃の剣でした。両極にある情報を誰もが手に入れられるようになり、より多くの情報が広がるようになっただけではなく、それとともに誤情報も広まることになりました。新型コロナウイルスのパンデミックで見たように、ソーシャルメディアは予防や治療に関する重要な情報を大衆に広めることに役立ちます。しかしそれは同時に、怪しい治療法や陰謀論、そして「5Gが新型コロナウイルスを拡散させる」などといった誤情報の拡散を助長してしまうのです。

正しい情報のみが広まるような世界を実現できれば理想的なのでしょうが、間違っている情報を遮断しようとすれば、真実を得る機会も失ってしまうかもしれないというのが難しいところです。そして真偽の判断をソーシャル・メディア・プラットフォームが行うとなれば、必然的に今度は彼ら自身が「門番」になってしまうでしょう。

このような集権的な意思決定の仕方は、その企業の本社がどこにあるかによって、より大きな意味で影響を及ぼす可能性があります。FacebookやTwitterは、言論の自由を支える重要な媒体として世界中で活用されてきましたが、これはそれらの企業が言論の自由を今のところ尊重する国を拠点としているからです。WeChatやWeibo、QQなどの中国を拠点としたサービスはそうではありません。

つまり、中央集権型のソーシャル・メディア・プラットフォームは2つの大きな課題を抱えています。コンテンツを管理する場合、それが善意に基づくものだったとしても、そのプラットフォームは「真実の裁定者」として非常に大きな負担を背負うことになります。そして、集権的な意思決定であるため、いったんそこが崩れれば、悪用や政治的バイアスに歯止めがきかなくなってしまいます。

ジャック・ドーシー氏を評価するべき点は、彼自身もこれらの問題をおそらく非常に強く意識しているということです。12月に、彼はTwitterを分散型へと転換することを検討していると発表し、「情報の悪用や、誤解を招くような情報に対処するためのグローバルポリシーを実践するにあたって、集権的なやり方では、多くの人に過度の負担をかけずに長期的にスケールすることが難しい」と説明しました。いずれ、Twitterもしくは他の分散型SNSによって、「管理」と「言論の自由」の最適なバランスが見つかるのかもしれません。

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Founding Partner & CEO @ Coral Capital

James Riney

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