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Spotifyは「ポッドキャストのYouTube」になれるか?

ここ数か月の間に、Spotifyはジョー・ローガン(Joe Rogan)とキム・カーダシアン(Kim Kardashian)の両方とポッドキャスト番組の独占契約を結んだことを発表しました。前者との契約は100億円以上に及ぶとも言われていて、後者の契約の金額面については公表されていませんが、おそらく高額です。このブログを読んでいる日本の読者からしてみれば、何が何だかさっぱりわからないかもしれません。ジョー・ローガンって誰?キム・カーダシアンって、あの有名なソーシャルメディア・インフルエンサーのこと?ポッドキャストを聴いている人なんて実際にいるのか、と思う人も多いでしょう。これには以下の背景があります。

ローガンの「ジョー・ローガン・エクスペリエンス(The Joe Rogan Experience)」という番組は、世界のポッドキャスト・チャートで常に上位にランクインしていて、毎月2億回近くダウンロードされています。イーロン・マスクが番組内で大麻を吸って炎上したニュースで覚えている方もいるかもしれませんが、その番組こそが「ジョー・ローガン・エクスペリエンス」です。ローガンと契約して、彼のポッドキャストをSpotifyで独占配信し始めるということは、彼の全フォロワーも必然的についてくるということです。

キム・カーダシアンは、パリス・ヒルトンのアシスタントだったこともあり、先に有名になったこのホテル経営者と同様に、「有名だから有名になった」ような人で、インスタグラムで1億7,700万人のフォロワーのいます。内容について私自身は全く知りませんが、「カーダシアン家のお騒がせセレブライフ」という番組を配信しています。

今回の件は要するに、Spotifyが独占的なコンテンツを対象としたビジネスに明らかに移行しようとしていて、中でもポッドキャストに注力しているということです。この戦略がなぜ彼らにとって重要なのかを考察することで、様々な興味深い点が見えてきます。

参考になる事例として、Netflixを見てみましょう。Netflixはここ20年で最も機敏で先見の明がある企業の1つといっていいでしょう。インターネットの利活用と物流インフラの融合により、DVDを郵便で効率的に配達するというビジネスチャンスが生まれたタイミングでNetflixは誕生しました。その後、ブロードバンドの速度が動画を配信できるくらい速くなったとみたら、それまでのビジネスを全面的に見直し、今度はインターネットでの配信を始めました。そして、DisneyやHBOなどのコンテンツ・クリエイターが、Netflixは視聴者と自分たちの間に立つ門番のような存在になりつつあると気づいた頃には、Netflixは何千億円も投資して独自コンテンツの制作を始めていました。まさに驚異的なスピードで進化してきたのです。

Spotifyの状況も似ていて、Netflixのような第3の進化を遂げようとしています。加入者数1億3,000万人、月間アクティブユーザー数2億8,000万人という膨大な顧客基盤を持っているにもかかわらず、Spotifyはコンテンツ自体は何も所有しておらず、独占配信権もありません。曲が再生されるたびに、Sony MusicやUniversalなどの音楽レーベルに売上の最大70%をロイヤリティーとして支払っています。したがって、利幅が薄く、交渉においても比較的弱い立場にあります。

しかし、似ているといっても違いはあります 。NetflixがテレビスタジオになれたようにSpotifyがレーベルになれる可能性は低いでしょう。まず、テレビ番組の制作と比べて、音楽制作にかかるコストはとても低く、アーティスト個人のレベルでも比較的どうにかなります。実際、多くのアーティストが個人で音楽を制作し、レコード会社を完全に飛ばしてSpotifyに直接アップロードしています。何より、音楽業界にはすでに人気のアーティストや音楽をしっかり掴んでいる手強い大手のプレイヤーたちがいます。

その点、ポッドキャスト業界にはまだ大きな可能性があります。急成長中かつブルーオーシャンの業界です。2019年の業界成長率は22.5%で、2020年にはポッドキャスト・リスナー数が米国だけでも1億人以上に達すると予想されています。そして、この業界の成長はポッドキャスターたちによって牽引されてきましたが、彼らはブロガーやYouTuberと多くの面で似ています。独立系クリエイターであるポッドキャスターたちは、インターネットのおかげで中間業者を飛ばして自ら視聴者を獲得することができました。また、ポッドキャスト界でUniversal StudioやSony Musicに相当するプレイヤーがいるかといえば、そもそも存在しません。

もう1つの重要なポイントは、「ポッドキャスト界のYouTubeは誰か」です。Appleがそうなれた可能性もありましたが、同社はアーティストやリスナーのために豊富なコンテンツを制作することに関してはほとんど力を入れてきていません。つまり、Spotifyがこの分野で市場を独占できる可能性が高いということです。これが、SpotifyがGimlet MediaやAnchorThe Ringerなどのいくつものポッドキャスト配信領域を何百億円も費やして取得するに至った理由です。そうすることでSpotifyに数多くのポッドキャスターたちを連れてこれるのです。

コンテンツが増えればより多くのリスナーを惹きつけ、リスナーが増えればより多くのポッドキャスターが集まります。このような好循環を実現することで、Spotifyは「ポッドキャスト界のYouTube」としてのポジションを確立することを狙っています。2019年第4四半期にはSpotify上のポッドキャストの視聴が前年同期比で200%増加したことを考えると、この取り組みはうまくいっているようです。

日本における主な論点は、ポッドキャストが米国のように人気コンテンツになり得るかどうかという点です。米国でポッドキャストが非常に人気である理由は、アメリカ人の多くが車中心の生活をしているため、通勤途中などにポッドキャストを聴くからということがあります。日本人は公共交通機関を利用して通勤することが多いので、道路をしっかり見ている必要はありません。しかし、スマートスピーカーやワイヤレスヘッドホンが普及するにつれて、今後は聴くことの方が合理的になるかもしれません。

テックビジネス
James Riney

James Riney

Founding Partner & CEO @ Coral Capital

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