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Googleも市場参入か、ヘルスデータで割引く新ジャンル保険が国内で登場

2020年8月25日。Alphabet子会社でヘルステック企業のVerilyが、大手保険グループのスイス・リーの支援を受ける形で新たな子会社「Coefficient Insurance Company」の立ち上げを発表したことが保険業界に衝撃を与えました。いよいよ、保険業界にGAFAが来ると。

保険商品は、個々人のヘルスデータを活用することで収益性の大きな改善が期待できますから、いずれテック企業が参入するというのは既定路線だったと言えるかもしれません。

約1年前の2019年11月にGoogleがフィットネストラッキングのFitbitを21億ドル(約2,220億円)で買収すると発表したのも、その布石と考えられます。まだEUが本格的に調査に乗り出すと8月に報じられていることから不透明な面はありますが、保険業界にデバイスなどから得たヘルスデータが入ってきて、それを活用できるプレイヤーが保険商品のあり方を変えるという動きは始まっています。

米中で伸びるヘルスデータによる保険割引

Google参入のニュースは象徴的ですが、実は米中にはすでに多くのプレイヤーがいる領域でもあります。2017年に香港で上場した「衆安保険」は、スマホで測った歩数によって保険金が増額されたり毎月キャッシュバックを受けたりできる「歩歩保」という商品を提供しています。また大手保険会社の中国平安グループは「i康保・百万医療」で健康診断や運動などのデータをヘルススコアとして数値化、それに応じて保険料を割り引くサービスを提供しています。

米国に目を向けると、オンライン医療保険のユニコーン企業「オスカー・ヘルス」が1日1万歩以上歩くと1ドル相当のポイントを付与(年間最大100ドル)する「ステッププログラム」を2014年から提供しています。

日本はどうなっているのか?

「日本には類似の保険商品は、これまでありませんでした」

そう話すのは、インシュアテック系スタートアップでCoral Capitalの出資先であるjustInCase創業者でCEOの畑加寿也さんです。justInCaseが9月1日に販売を開始した「歩くとおトク保険」は、日本の保険業界においては新ジャンルの商品だと言います。スマホで計測した1日の歩数やBMIの改善によって毎月の保険料が安くなる保険です。

「これまでにも歩いた歩数によって割引のある保険自体はありました。例えば3年前に東京海上日動あんしん保険が出した『あるく保険』というのは1日に8,000歩以上歩いた日数によって健康増進還付金が支払われるというものです。加入者の生活スタイルによって優遇するという点で、日本の保険業界では当時は画期的でした。日本でも、そんな保険が出てきたのか、と。ただ、当時は大規模な歩数データがなかったので割引計算はシンプル。割引率という点でも数%程度にとどまりました。こうした先行の保険に比べると、2つの点で、私たちの歩くとおトク保険と異なります」(justInCase畑さん)

justInCase代表取締役 畑加寿也さん

東京海上のあるく保険は、8,000歩という決まった歩数を超えた日数から一律の計算式で2年間の最後に還付金が支払われる方式であるのに対して、justInCaseは年齢、性別、BMI、歩数といったデータからつくった疾病率の予測モデルに基づいて個々人、また月によって変動する割引率を算定。前月の平均歩数とBMIに連動して翌月の保険料が変動するという、よりダイナミックな価格設定となっています。割引率は、年齢や性別に依存しますが、最大52%、平均でも20%超と幅が大きくなっています。

以下の表にあるとおり、例えば30〜35歳の男性であれば、標準の保険料は1か月1,540円です。しかし、その下にあるカラフルな一覧表を見れば、同じ年齢、性別でも、BMI(横軸)と歩数(縦軸)によって割引率が異なるのが分かります。

保険料割引率表(30〜35歳の男性の場合)。毎月の1日あたりの平均歩数(縦軸)が多く、BMI(横軸)が低くなるにつれて、保険料の割引率が増加

上記の一覧表はとても興味深いものです。WHOによればBMI30以上が肥満と分類されますが、BMI30の太り気味の人でも1日に1万4,000歩も歩けば割引率20%が適用されます。つまり、初月1,540円の保険料が翌月は1,060円と500円近く割引になるということです。

もともと痩せている人は病気になりにくい。あるいは太っていても、たくさん歩く人は病気になりにくい。そうした疾病リスクの低い人には安い保険料を提供するのがjustInCaseの「歩くとおトク保険」ということです。

保険の原価とも言える「純保険料」から割引をする初の保険

これまでの保険で考えられなかった大幅な値引きが可能なのは保険業界で「純保険料」と呼ばれている保険の原価に手を入れて、そこから値引きの原資を割り合てる点が新しいからだと畑さんは説明します。

保険ビジネスの原価には、実際の保険金の支払いに割り当てる「純保険料」と、保険ビジネスを運用するための人件費やマーケティング費用などの経費である「付加保険料」の2つがあります。純保険料は疾病率や死亡率など統計データから算出されるものです。

従来、この純保険料を個々人の健康データによって圧縮するような商品は日本にはなかったのだと言います。先駆者である東京海上の保険も、一定歩数以上を歩くことによる割引インセンティブのある健康増進型であるものの、あくまでも付加保険料からの割引。同様に、住友生命のVitalityという健康増進保険も健康診断書のアップロード等によって割引が受けられますが、justInCaseの「歩くとおトク保険」のように直接的に純保険料から割り引くものではありませんでした。

モデルづくりのための歩数データがなかった

これまでにも喫煙・非喫煙、既往症によって保険料を変える保険商品はあったものの、歩数データでダイナミックに変動させる保険は、「歩くとおトク保険」が国内で初めて。なぜ、今までなかったのでしょうか? justInCase畑さんは以下のように説明します。

「これまで歩数データがなかったんです。ただ、私たちが2年前にスマホ保険の販売を開始した頃に、DeNAさんからお話を頂いたんですね。DeNAはずっとヘルスケア事業に取り組んでこられていて、健康保険組合と提携してアプリを配るなどされていました。それで当時すでに10万人規模、5年分という大規模な歩数データを持っていました」

「DeNAもデータ分析はしていたものの保険業の知見がない。それで大手生保や外資生保にも話を持ちかけたそうなのですが、従来の保険会社ではうまく話が進まなかったそうです。保険会社にとってデータが複雑で大きすぎたんです。『こういうデータで保険料は計算しないんです、前例がありません』ということですね」

「justInCaseが提供しているスマホ保険は利用者の利用状況、例えば一定期間に何度スマホを落としたかなどのデータを見て割引適用をする保険です。この新しい保険を見ていただいたDeNAの方が私たちjustInCaseなら歩数データに基づく新しい保険商品もつくれるのではないか、とお声がけを頂いたのがスタートで、これが約2年前でした」

「そこから統計モデルをつくって、ご覧いただいたような割引率のテーブルをつくって、それを今回商品化した形です。モデルづくりには、だいたい10万人分のデータを利用したので、すでに疾患などで差異が出ています」

スマホの普及開始から10年。データが十分蓄積してきたタイミングです。justInCaseは、すでに監督官庁と調整の上で新しいタイプの保険商品リリース経験があるスタートアップだったからこそ、今回も新ジャンルの保険商品が開発できたと言えそうです。

フェアな保険料、その先にあるもの

健康的な生活を送っている人でも、逆に太っていて運動不足の人だろうと、一緒くたに扱わざるを得なかった従来の保険に比べると、推定される疾病率によって保険料を変えるというのはフェアなことかもしれません。せっかく健康や食事に気を配っていても加入者全体で一律の保険料テーブルでは、分が悪いからです。

歩くほど、痩せるほど安くなる。そうした保険商品が一般化すると、大規模に消費者の行動変容まで起こせる可能性があります。畑さんは、どういった未来を見ているのでしょうか。

「おっしゃるとおり、行動変容までできると、本当にインパクトが大きいです。ダイエット保険と名前を変えるというのもあり得えるかもしれませんね(笑)。痩せられる上に達成すると保険料が下がる。病気にかかりづらいので利用者もハッピー、保険会社は売上は落ちても収益性は上がる、国の社会保障費の予算も下がるという良いサイクルが生み出せると思っています」

「今は歩数とBMIだけを見ていますが、すでに喫煙データもありますので、今後もう少し詳しく分析ができると考えています」

「最近はApple Watchなどのデバイスが普及して、心拍数や血糖値、食事傾向、飲酒も含めてモニタリングする人が出てきています。それをフィードバックして、フェアに保険を設計していきたいですね。時間のかかる話ですが、そのことによって行動変容が促せればと思っています。行政や全国健康保険協会といったところは社会保障費抑制の面でも健康促進に対するニーズがあるので、そうした方面でも取り組みが可能だと思います」

「ポケモンGoのように老若男女が楽しみつつ、外出や歩くことを促す『健康xゲーム』という取り組みも、まだまだ可能性があると思っています。ポケモンをやるだけで保険が安くなる、というような。ただ、そうした企画をすることは私たちの仕事ではないので、今後は外部提携を柔軟に進めるためにもAPI提供も予定しています」

(情報開示:justInCaseはCoral Capitalの出資先企業です)

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西村 賢

西村 賢

Partner, Chief Editor @ Coral Capital

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