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私が日本のスタートアップ投資の魅力を海外に伝えるときに話すこと

ベンチャーキャピタルのCEOとしての私の主な仕事の1つが、スタートアップやファンドのために資金を調達することです。そのために業界内外の人たちとコンタクトを取っているのですが、日本のスタートアップエコシステムにはまだ私のような外国人や英語ネイティブが少ないことから、必然的に海外投資家とのやり取りが多くなっています。日本について情報を得るための問い合わせが来ることもあれば、私のほうから日本のスタートアップを売り込みに行くこともあります。 日本のスタートアップエコシステムが海外でも広く認識されるようになるにつれて、この資金調達の業務もよりスムーズに進められるようになりました。海外投資家からのコンタクトが増え、こちら側からコンタクトした場合も以前より前向きな反応が得られるようになってきています。しかし、このように環境が改善している中でも、頻繁に聞かれるのが、「Why Japan?」という質問です。コンタクト先の機関投資家の多くは主に米国や中国、欧州を投資ターゲットとしていて、そこにインドや東南アジアが加わることもありますが、日本の投資に対しては「景気が後退しているらしいけど大丈夫?有望なスタートアップはあるの?」といった反応をされることが多いです。 これは海外投資家が日本を軽視しているからではなく、冗談でもありません。単純に情報不足で、日本のことを本当にほとんど知らないのです。ですので、日本のスタートアップ市場について海外投資家と話すときには、私は以下のポイントについてまず説明するようにしています。

日本のスタートアップ市場は7年で7倍成長している

最初の取っ掛かりとして一番効果があるのが、これまでの成長を伝えることです。マーケットが「7年で7倍」成長したと言えば、語呂もよく、覚えやすいのでまずこれで相手の興味を引きます。それに続き、最近では事業会社やVC、エンジェル投資家から調達できる資金が以前と比べて圧倒的に増えている、投資対象として魅力的なスタートアップが次々と生まれてきているなどと説明します。

日本でもスタートアップがメインストリームになりつつある

日本人というと、リスクを嫌い、大企業での終身雇用を好むサラリーマンばかりだと海外投資家から思われていることが多いのですが、ここ10年で状況はだいぶ変わってきました。そのため、最新のトレンドについて正確に伝える必要があります。最近ではメディアでスタートアップが取り上げられることも増え、メインストリームに近づきつつあるどころか「かっこよくて尊敬できる」キャリアパスとして評価されるようになってきています。実際、国内トップレベルの優秀でイノベーティブな人材の多くがスタートアップ界に強い関心を持ち始めています。 このような変化が起こった理由として、具体的にこれだと断定できるものはないのですが、おそらく政府主導のスタートアップ支援プログラムによる貢献が大きかったのではないかと考えています。J-Startupなどの政府系スタートアップ推進プログラムのおかげで、スタートアップにもようやく注目が集まるようになり、信用もあがってきました。この変化はさらに日本の経済市場全体にも波及しました。日経新聞ではスタートアップ取材チームが作られ、事業会社の経営陣の間でも「オープンイノベーション」などが話題に上り、スタートアップとの積極的な連携が検討されるようになりました。スタートアップについての授業をカリキュラムに組み込む大学も増えてきました。このように様々な界隈で注目されるようになったおかげで、スタートアップがより一般的に知られるようになり、知人や家族からも理解を得られやすくなってきているのではないかと思います。 また、スタートアップ業界の活性化にはINCJやDBJ、中小機構、クールジャパン機構などを介した政府による間接的な資金面での支援も欠かせませんでした。例えば、2013年後半から2016年前半のおよそ2年間にわたってINCJは531億円をベンチャーキャピタルファンドに出資しました。それまでの日本のスタートアップに対する投資額は全体で年間800億円程度でしたので、このINCJによる投資は非常に大きなターニングポイントとなりました。以前は、日本のVCは機関投資家から投資対象としてほとんど選ばれることがなく、スタートアップやベンチャーキャピタルには事業会社以外の資金調達先がほとんど残されていませんでした。そのような投資資金が限られている状況では、スタートアップもより野心的な目標を目指すことができず、結果的にイグジットも小さくなってしまっていました。しかし、INCJが投資したファンドをきっかけに、日本のスタートアップ史上最大級の規模のイグジットに成功する企業が出てきました。そのうちの1つが「日本初のユニコーン」としての快挙を遂げたメルカリのイグジットです。それから間もなくして機関投資家たちが私たちのようなVCに真剣に興味を持ち始めたのも、決して偶然ではないと思います。

海外と比べて圧倒的に競争が少ない

日本のスタートアップ界は確かに大きな発展を遂げてきましたが、まだまだ成長の余地があります。GDPの割合で言えば、日本のスタートアップ投資額は米国や中国と比べてまだ圧倒的に小さいのが現状です。この差は、日本のスタートアップ市場の成長ポテンシャルの大きさ、そして競争の少なさを示しています。米国や中国ではどこもかしこも競争が激化しています。例えば、ここに1人の起業家がいて、大きな事業を成し遂げるために完璧なチームと実行プランを用意したとします。しかし、周りを見渡せば、自分たちと同じことをやろうとしているスタートアップが他にも20社あって、しかも相手はGoogleやTencentの元社員。逆に投資家の立場からすれば、20社のライバルVCを相手にそれらの有望なスタートアップへの出資枠を争わなければなりません。まさに弱肉強食の容赦ない環境です。それと比べると、日本の競争環境はまだ非常に穏やかと言えます。

東京を制したスタートアップが、日本を制する

以前にも記事で書きましたが、東京はスタートアップを立ち上げるのに絶好の都市です。なぜなら、日本の経済のほとんどが首都圏に集中しているからです。例えるなら、日本のハリウッドやワシントンDC、ニューヨーク、シリコンバレーが全て東京に集約されているようなものです。ほとんどの大企業が東京に拠点を構えていて、電車ですぐにアクセスできるため、極めて効率的に営業活動を行えます。また、首都圏には現在3,800万人ほどの人が住んでいますが、似たようなライフスタイルを持ち、同じようなコンテンツを好み、抱えている問題にもやはり多くの共通点があります。つまり、プロダクトを考案・マーケティングしやすく、非常に攻略しやすい顧客層なのです。このような一極集中型の構造が、実際のところ是正するべき問題なのか、それともただの国民性によるものなのかは意見が分かれる点ですが、少なくともリソースが限られているスタートアップにとっては大きなアドバンテージになります。東京を集中的に攻略するだけで、日本のマーケットをほぼ手中に収めることができるのですから。 国内で機関投資家を呼び込むことが、日本のスタートアップ業界にとって長年の大きな目標の1つでした。しかし、今後は海外投資家にもアピールし、呼び込むことが業界の次なる発展の鍵となると考えています。そのアピールポイントとして、「Why Japan?」と聞かれた場合の私なりの答えを今回紹介させていただきましたが、日本のスタートアップ界には私が知らないだけで、まだたくさんのアピールポイントがあると思います。海外投資家へ日本市場の魅力を伝えるために説得力のあるセールスポイントとなるアイデアやデータ、調査結果などをご存知の方がいましたら、参考にさせていただきたいので、ぜひメールもしくはTwitterでご連絡ください。皆様のご協力をお待ちしております!

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Founding Partner & CEO @ Coral Capital

James Riney

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