なぜ次の太陽光戦争を制するのは、中国ではなく日本なのか

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Written by James Riney
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過去10年間、クリーンエネルギーの合言葉は「太陽光に切り替えよう」でした。パネルは安価で、いまもなお安くなり続けており、CO2削減のメリットも明白です。しかし、この流れと一緒に語られることがほとんどない不都合な真実があります。いま太陽光に切り替えるとは、すなわち中国製を選ぶことを意味します。

中国は太陽光発電の製造能力で、川上から川下まで世界全体の約80%を握っています。さらに上流に目を向けると、この状況はもっと際立っています。太陽光パネルの原料となるポリシリコンで83%、それを薄板に加工したウェハで97%、なかでも新疆ウイグル自治区だけで、世界のポリシリコンの約40%を占めています。従来型の太陽光パネルは全て、原料をたどれば中国製なのです。

エネルギー転換は、産油国からの解放として喧伝されてきました。しかし実態は、依存先の入れ替えに近いものです。ロシアのガスとホルムズ海峡の石油から、新疆のシリコンへ。

今春のホルムズ海峡封鎖は、この入れ替えがいかに分の悪い取引かを浮き彫りにしました。世界の石油流通量の約20%が止まり、国際エネルギー機関(IEA)はこれを「史上最大の世界的エネルギー安全保障上の課題」と位置づけています。輸入国の外務省が一様に痛感した教訓は、明白なものでした。不安定で信頼できない地域のチョークポイントにエネルギー供給を集中させるのは、2度と繰り返してはいけない類いの戦略的な誤りだ、と。

日本の状況は、さらに深刻です。原油輸入の95%が中東からで、その80%がホルムズ海峡を通過してきています。エネルギー自給率はわずか13%にとどまります。8,000km離れた1本の海峡が、世界第4位の経済大国の息の根を止めかねません。

エネルギー転換の本来の目的は、こうした脆弱性から脱することであり、依存先を別の場所に移すことではないはずです。ホルムズ海峡の石油を新疆のシリコンに置き換えても、問題の解決にはなりません。別のチョークポイントを選んでいるだけなのです。

かつて日本は、太陽光の覇者でした。2004年、世界の太陽光パネルの半分以上は日本製でした。シャープ、三洋電機、京セラ、パナソニックが業界を牽引していました。1985年から2007年にかけて、日本の研究者が出願した太陽光関連特許の数は、米国と欧州を合わせた数の2倍以上にのぼります。

しかし、補助金が打ち切られ、中国の国家主導による大規模生産が始まり、15年も経たないうちに日本の量産メーカーは市場から撤退しました。第一次太陽光戦争は、敗北に終わりました。

ところが、第二次太陽光戦争が静かに始まりつつあります。太陽電池をつくる方法は、もう一つあるのです。そしてその方法では、日本に構造的な優位性があります。

ペロブスカイトという選択肢

ペロブスカイトは、有用な性質を2つ備えた結晶材料です。1つ目は、インクのように塗布できる点です。シリコンが半導体の製造工場(ファブ)を必要とするのに対し、ペロブスカイトはフィルム、ガラス、曲面に対し、ロール・トゥ・ロール方式(ロール状のフィルムに連続塗工する印刷工程)で製造できます。

2つ目は、すでに技術的に競争力があることです。太陽光発電の性能は、受けた光エネルギーのうち何%を電気に変えられるかを示す「変換効率」で測ります。ペロブスカイト単体のセルでも変換効率は27.3%に達し、シリコンと2層に重ねたタンデム型では35.0%にも達しました。商用シリコンを優に上回る水準です。

太陽光発電は、これまでパネルが届かなかった場所にも展開できるようになりました。渋谷のオフィスタワーの外壁。バスターミナルの曲面屋根。ガラスモジュールの重量に耐えられない体育館。ペロブスカイトフィルムは、従来型パネルのおよそ10分の1の重さしかありません。

これは日本にとって、とりわけ有用です。日本は山がちで人口密度が高く、メガソーラーを設置できる平地は限られています。一方で豊富にあるのは垂直な表面、つまり大量の建物です。シリコンとは相性の悪かった地形が、ペロブスカイトにはほぼ完璧に合うのです。

日本が握る上流サプライチェーン

ペロブスカイトセルの中核には、ハロゲン化物と呼ばれる化合物群、典型的にはヨウ化メチルアンモニウム鉛が使われます。つまり、ここで鍵となる原料はヨウ素です。

現在、世界のヨウ素生産の約59%(2024年で約26,000トン)はチリが占めており、アタカマの地下かん水(塩分を多く含む地下水)から採取しています。日本は約30%で2位、千葉県の地下かん水から回収しています。

しかし、本当に効いてくるのは生産量ではありません。世界の埋蔵量を見てみましょう。

出典: USGS Mineral Commodity Summaries; Statista.

日本は、世界のヨウ素埋蔵量の79%を保有しながら、供給量では30%しか担っていません。これらの鉱床のほぼすべてが、日本列島の地下にあります。

日本は天然資源に乏しいと言われますが、ヨウ素は数少ない例外です。しかも、世界トップクラスの埋蔵量を誇ります。いわば、地質というディーラーが、今回、日本に最高の手札であるロイヤルフラッシュを配ったようなものです。

ペロブスカイト vs. シリコン

懐疑論者がよく言うのは、ペロブスカイトモジュールはワット単価で中国製シリコンパネルに勝てない、という指摘です。現時点では、その通りです。しかし、それは論点ではありません。

仮に渋谷のビルオーナーが、同じ壁面に貼るためにペロブスカイトフィルムと中国製シリコンパネルを比較するなら、おそらくペロブスカイトが負けるでしょう。しかし、これは現実の選択肢ではありません。その壁は今この瞬間、1kWhも発電していません。20kgのガラスパネルを貼ることもできません。

本当の比較対象は、ペロブスカイト対「何もしていない壁」です。「何もしていない壁」と比べるのなら、基準は系統電力(電力会社から買う通常の電気)の価格になります。

経済産業省が示すペロブスカイト太陽電池の発電コスト見通しは、現時点で1kWhあたり20円であるところが、2030年までに14円、2040年までに10〜14円となっています。日本の業務用系統電力は、すでに1kWhあたり18〜25円で推移しています。初期用途の一部ではすでに採算が合い、コスト低下とともにさらに広がっていきます。

最初に狙うべき市場は「世界の太陽光全体」ではありません。従来型シリコンでは決して届かなかった、垂直面・曲面の膨大な面積です。この市場には、中国はまだ参入していません。日本は、その市場を自ら切り開ける稀有な立ち位置にいるのです。

動き出している日本企業

いくつもの日本企業が、ペロブスカイトを商業化の段階へと押し進めています。

積水化学工業はフィルム型セルで先頭を走っています。すでに自社の大阪本社ビル、東京国際クルーズターミナル大阪・関西万博のバスターミナルの曲面の屋根に設置済みです。最後の万博バスターミナルは、この種の設置例として世界最大規模となっています。同社は2030年までに年間生産能力1GW(おおむね原発1基分の発電能力)への拡張に向け、3,100億円(約20億ドル)の投資を決めました。

パナソニックはガラス型方式を選び、建材一体型太陽光発電、つまり発電機能を併せ持つ窓や外壁の開発を進めています。東芝、リコー、そして京都発のスタートアップEneCoat(エネコートテクノロジーズ)も、経済産業省の246億円の補助金プログラムのもとで協働しています。日本の目標は、2040年までに国内で20GWを導入する、というものです。

中国もペロブスカイトに気づいている

中国のシリコンメーカーたちも、先を競ってペロブスカイトに参入してきています。GCLテクノロジー(協鑫科技)は7億ドルを投じて崑山に工場を建設中で、UtmoLight(極電光能)は初のギガワット級生産ラインを立ち上げ、現時点で60社以上の中国企業がモジュールを生産しています。世界最大のシリコンメーカーたちが、新しい化学にこれだけの規模で賭けている事実は、ペロブスカイトに何かがある証拠です。

しかし今回は、ゲームのルールが違います。中国がシリコンを支配できたのは、ポリシリコンの精製が資本、エネルギー、政策の力で規模を拡大できる種類の事業だったからです。ヨウ素はそうはいきません。

埋蔵量は授かるものであり、つくり出せるものではありません。どこに眠るかは地質の偶然が決めるもので、世界のヨウ素の79%がたまたま日本の地下にあったのです。中国がいくらギガワット級のペロブスカイト生産ラインを立ち上げたところで、ヨウ素は外から調達するしかないのです。

前回は日本は技術ではリードしながらも、コスト競争で敗れました。今回は、日本が上流にいるのです。

Japan Is Back(日本の復活)

近代的なシリコン型太陽光発電を生み出したのは日本でした。しかし国家主導の大規模投資で覇権を握った中国メーカーにその産業を奪われ、いま二度目のチャンスを迎えています。

今度は、上流の資源が日本の国土の下にあります。今度は、製品の形状が日本の地形に合致していますし、今回は政策の歯車も早い段階から動き出しています。

復活が約束されているわけではありません。技術的な課題は解決しなければなりません。中国の資本がコストで追い抜くより前に、上流の資源優位を製造の優位へと結びつける必要があります。

それでも、日本には圧倒的な優位性があります。世界のヨウ素埋蔵量の79%を持つ国、垂直型太陽光を必要とする建物が並ぶ国、そして20年前に世界の太陽光関連特許の半分を出願していた国。これらはすべて、同じ国なのです。

第一次太陽光革命の主役はシリコンで、日本は機会を逃しました。第二次の主役は、シリコンのように切り出すのではなく塗布で広がる化学物質。これまでパネルが届かなかった表面、そして千葉の地下かん水から取り出される元素です。

日本は復活しました。ディーラーが日本に配ったのは、絶好の手札です。今こそベットすべき時です。

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