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日本でもチャンス、海外で伸びる月額定額制ワーケーションスタートアップ

働き方に大きな変化がやってきた

コロナ禍をきっかけに働き方に大きな変化の波が押し寄せました。それはリモートワークやワーケーションです。

以前にCoral CapitalのパートナーであるJames Rineyが「コロナで10年進んだデジタルトランスフォーメーション(DX)」 でも触れたように、新型コロナウイルスによってリモートワークという働き方が広く浸透しました。

今回はリモートワークのさらに一歩進んだ新しい生活スタイルであるワーケーション、それを可能にするワーケーションサブスクリプションというビジネス、またソーシャルネットワーキングやコミュニティの場としてのワーケーションについてご紹介します。

※本記事をまとめた動画はこちらです。

ワーケーションという過ごし方

ワーケーションは「ワーク」(仕事)と「バケーション」(休暇)を組み合わせた造語で、観光地やリゾート地などの旅行先で仕事をしながら休暇を楽しむ過ごし方です。日本では「リモートワーク」とともに「ワーケーション」が2020年の流行語にノミネートされました。

日本ではまだまだワーケーションを実践している人は少ないですが、働き方改革を先進的に進めている企業や観光の拡大を図りたい地方自治体、航空・観光事業者などの間で注目を集めています。日本航空は日本企業ではいち早く2017年にワーケーション制度を導入し推進してきました。日本航空のウェブサイトには以下の記述があります:

「休暇先(旅先)で仕事をするという新たな働き方により、早朝や夕方以降の時間を社員が自由に過ごすことで、業務への活力につなげることが狙いです。また、ワーケーションにより、旅行の機会を増やし、家族と過ごす時間が増えることが期待されます。さらに、地方で開催されるイベントなどに積極的に参加することで地域の活性化の一助としてまいります」(「JALは、テレワークを推進し、働き方改革を進めます」)

ワーケーションのメリットと課題

ワーケーションには個人、企業、地域それぞれにメリットがあります。

例えば個人と企業には、働き方改革による労働時間の減少や柔軟な働き方による余暇時間の増加による健康経営の促進、QOLの向上といったメリットがあります。また地域にはワーケーション市場の拡大による関係人口の増加と地域活性化や事業化の可能性があります。

このようにワーケーションには多くのメリットがあり期待が寄せられていますが、今後の普及に向けてはいくつかの課題もあります。例えば、通信や室内設備などのワーケーションインフラ整備や労務管理、業務マネジメントです。

また、そもそもワーケーションが本当に個人にとって良いのどうかかについては、まだ良く分からない面もあります。例えば、欧米でのワーケーション概念を包括的にレビューしたBrigitta Pecsek(2018)によれば、「ワーケーションの効果に関する学術的根拠はまだまだ不十分である」としています。情報通信技術の発達により遠隔地の休暇中においても仕事ができるようになったが、このような状況は仕事と余暇の区別を曖昧にし、個人のストレスを増大させ、仕事自体も非効率になる可能性があると述べています。

欧米でのワーケーションの歴史とデジタルノマド

ワーケーションという言葉は2010年代前半にBBC、ニューヨークタイムズ、フォーブスなどの欧米の主要メディアで使われ始めました。ウォール・ストリート・ジャーナルが2015年6月に「This Summer, How About a Workcation?」と題してワーケーションを特集し、その中で「労働者が滞在先の宿泊費と旅費を負担して、旅先からの電話会議への参加や報告書の作成をする一方、休み時間は観光に出かけたり家族と一緒に過ごしたりする働き方」として紹介しています。

時を同じくして欧米ではデジタルノマドという言葉も生まれました。デジタルノマドとは旅をしながらいつでもどこでも働けるモバイルライフスタイルのことで、インターネット、携帯電話、PC、オンライン会議システム、移動手段などの発達により可能となりました。

ワーケーションもデジタルノマドも比較的新しい言葉ですが、欧米ではもともと各地を転々としながら生活するスタイルがそれほど珍しくありません。実際にアメリカではキャンピングカーを意味するRV(レクリエーション・ビークル)市場が2兆円に達しており、今後5年間はCAGR(年平均成長率)8.5%で成長すると見込まれています。この背景には、ミレニアル世代の中で、ローンを背負って住宅を買い、子供を大学に進学させ、自分たちがリタイヤしてからやっと自由を満喫するという、いわゆるこれまでのライフスタイルを拒絶する人たちが増えていることがあるようです。国内に限らず国際的に移動しながら働き、生活をする人も少なくありません。

前述のデジタルノマドと呼ばれる人々が既にアメリカでは約800万人いると言われており、デジタルノマド予備軍は、さらに1,600万人程度いると言われています。

欧米での新しいワーケーションビジネス―、ワーケーションサブスクリプション

デジタルノマド人口の増加に伴い、欧米ではワーケーションサブスクリプションと呼ばれる新しいワーケーションビジネスも生まれ始めています。国内外を移動しながら働き生活をする人々向けの月額定額制ワーケーションサービスです。

Inspirato Passは富裕層をターゲットにしたサブスクリプションサービスです。ラグジュアリーなバケーションが楽しめる5つ星ホテルを月額2,500ドル(約26万円)から利用できるサービスです。有名な高級ホテルやリゾートを含む世界に7万件以上ある施設が利用し放題になります。

2015年にパナマで設立され、現在ロンドンに本社を構えるSelinaはブラジル、アルゼンチン、コロンビアなどの南米や、コスタリカ、パナマ、グアテマラなどの中米、そのほかアメリカ、ロンドン、ポルトガル、イスラエルを中心に19か国76拠点で定額制ワーケーション施設を運営しています。月額ユーザーは例えばコスタリカを旅した際、コスタリカの主要4都市8拠点にあるSelinaのワーケーション施設を自由に使うことができます。Selinaは2019年4月に1億ドル(約104億円)のシリーズC調達ラウンドを終え、累計で2億2,500万ドル(約235億円)の資金調達を行っています。

Selinaのサイト

スタートアップの世界ではオフィスを購入したり賃貸するのではなく、WeWorkなどのコワーキングスペースや住居シェアリングのAirbnbで働くことはそれほどめずらしいことではありません。最近ではWeWorkとAirbnbのビジネスコンセプトも近くなってきており、今やWeWorkは施設内に宿泊施設を併設したり、Airbnbは仕事に適した滞在環境を整えています。

Selinaはこのコワーキングやコリビングだけでなく、そこに遊びの概念を加えたコンセプトをベースに事業を展開しています。

Access IndustryのLincoln Benetは「Selinaがデジタルノマドにグローバルホスピタリティプラットフォームを提供することで、住む、働く、遊ぶ、学ぶという概念を再定義していくことになるだろう」と述べています。

ソーシャルネットワーキングの場としてのワーケーション

コワーキングやコリビングだけでなく遊びのコンセプト、さらには出会いやソーシャルネットワーキングの場としてのワーケーションを提供するスタートアップも出てきています。

2017年にニューヨークで創業したLife Houseは滞在期間の「コミュニティ作り」「ソーシャルネットワーキング」をコンセプトの1つとしており、Life Houseに滞在することで新しくユニークな出会いを提供しようとしています。

ホテル業界ではテクノロジーの導入が遅れている中、Life Houseは予約からチェックイン・チェックアウトや最適宿泊価格の算定、バックエンドオペレーションにおいて、ソフトウェアテクノロジーを導入することでオペレーショナルエクセレンスを実現し、既存のホテルの収益率を30〜40%改善することに成功しています。Life Houseは2020年1月に3,000万ドル(約31億円)のシリーズBラウンドを行い、これまでに1億ドル(約104億円)以上を調達しています。

そのLife Houseが次に狙うのがソーシャルネットワーキングの場としての旅行や宿泊です。事前に宿泊者にいくつかの質問に答えてもらうことで、(要望があれば)宿泊時に宿泊者同士をマッチングすることで宿泊以上の体験やビジネス・プライベートにおけるネットワーキングの場、さらには滞在地域独自の体験や文化との触れ合いを提供しようとしています。

10年前、私たちはマッチングアプリで見ず知らずの人と出会うことやコワーキングスペースで社外の人々と働くことに抵抗を感じていました。今はマッチングアプリでの出会いやコワーキングスペースでの仕事が当たり前になっています。

では旅行や宿泊、ワーケーションにおいてソーシャルネットワーキングやマッチングが当たり前になるのでしょうか? 安全性や心理的ハードルを考えるとそうなるまでには時間がかかりそうです。まずはLife Houseのようなブティックホテルが、ここに来ると新しく楽しい人たちに出会えるというブランドを築いていくことが必要です。

日本発のワーケーションサブスクリプション

海外ではSelinaやInspirato Pass、Life Houseなどのサービスが広がる中、日本でも日本発のワーケーションサブスクリプションサービスも出てきています。

Selinaに近いコンセプトのスタートアップであるSANUは自然との共生をテーマに都心からは離れた地域でのセカンドホームサブスクリプションサービスを2021年春より開始予定です。月額5万円から全国に点在するセカンドホームのどこにでも泊まれます。

また2019年4月にサービスを始めたHafHは長崎を拠点とし、現在世界25か国250都市以上での月額制滞在を提供しています。

日本には自然や文化、食を楽しめる地域・地方の観光スポットが多くあり、住む、働く、遊ぶ、楽しむをコンセプトにしたワーケーション文化が広がっていくことを期待しています。

ワーケーションやワーケーションサブスクリプション、ホテルDX関連事業で起業をお考えの方はCoral Capitalまでご連絡ください

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Kiyoshi Seko

Senior Associate @ Coral Capital

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