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海外注目7社から見るFoodTechスタートアップのトレンド

「食」に関連する事業領域をデジタルで再定義するFoodTechスタートアップへの投資が年々増えています。米Pitchbookがまとめたレポートによれば、2010年代初頭に数百億円だった年間投資額が2019年には1.6兆円超にまで増加。フードデリバリーやレストラン予約から始まったFoodTechスタートアップですが、家電メーカーやロボティクスも巻き込んで調理の自動化やパーソナライズといった領域へも広がり、さらには代替プロテインや遺伝子編集による新食材開発といった、より大きな市場にまでスタートアップ投資が広がっています。

この記事ではFoodTech動向を象徴するように思われる海外スタートアップで注目の7社をご紹介します。

※本記事は2020年10月にCoral Capitalが主催した記者向け勉強会の概説セッションをまとめたものです。このセッションは動画でもご覧いただけます。

南米コロンビア発のユニコーン「Rappi」

米Uberの売上に占めるフードデリバリーの売上比率は、2017年には7.4%に過ぎませんでしたが、コロナ前の2019年時点ですらライドシェアの4分の1の規模、全体に対する比率でも17.7%にまで伸びています。

フードデリバリーやライドシェアは、ともに少額のトランザクションが日常的に発生するC向けアプリという共通項があり、北米のUber、中国のWeChat、東南アジアのGojekなど、両方を提供する強力なプレイヤーが登場しています。特に中国や東南アジアでは、1つのアプリに様々なサービスが載るプラットフォームとして「スーパーアプリ化」しています。

2015年に南米コロンビアから出てきたRappiは、2016年にはY Combinatorに採択。その後もSequoia Capitalや、2019年にはソフトバンクから10億ドルの出資を受けるなど著名ファンドからの注目も高いスタートアップです。かつてメッセンジャー戦争でWhatsApp、WeChat、Messenger、LINEなど各国を群雄割拠したのと似て、C向けで日常的決済の入り口を抑えたプレイヤーが、スーパーアプリとして君臨するという見立てによるところが投資を集めた理由として大きかったと考えられます。事実、すでにRappiは南米9か国、200都市にサービスを展開していて、2020年6月にはライブコマースや音楽、ゲームといった領域にサービス拡充することを発表しています。

コロナ禍で昨対比500%の伸び、「Instacart」

2002年創業の米Instacartは、これまでに累計24億ドル(約2,500億円)を資金調達しているユニコーン企業です。ドラッグストアやスパーマーケットでの買い物代行と配達をしてくれるサービスです。コロナ禍で利用が大幅に増加し、2020年3月には昨対比500%の売上を達成したと報じられています。一時期もてはやされたBlue Apronなどミールキットが失速しているのと対象的です。ただ、日用品でも何でも届けてくれることから、生活に根付いたサービスとなっているようですが、これはモータリゼーションの時代に行われた都市設計とも密接に関わる話。徒歩圏内にコンビニやドラッグストアがある日本の都市部には不要なサービスでしょう。むしろ日本国内ではコンビニの次のモデルとなるO2O体験が作れるプレイヤーが登場する可能性が高く、2020年にCoral Capitalがカンカク出資を決めた理由もそこにあります。

ロボットがピザ作りする無人レストラン「Pazzi」

フランス発の「Pazzi」は完全自律型のピザレストランです。画像解析やロボット技術まで使ってオーダー受付から商品引き渡しまで無人で、自動化したサービスを展開しています。1時間に80枚のピザを作れると言います。2012年の創業以来、やや実証実験的に開発を進めてきた印象もありますが、2019年には約12億円を追加資金調達。コロナによる非接触型調理への追い風もあり、注目の領域です。日本国内では汎用のロボットアームで各種調理ロボットを提供するコネクテッドロボティクスがあります。

キッチンOSの座を狙う「Innit」

Rappiのところで書いたようにC向けで決済頻度の高いサービスを取ったプレイヤーは、隣接領域も巻き込んだ強力なプレイヤーになるという方程式があります。同様に、食材流通や販売、家庭内の調理まで一気通貫で関連サービスを束ねるプレイヤーが現れるのではないかと考える人が増えています。2013年にアメリカで創業したInnitは、パーソナライズレシピを提供するスタートアップですが、見ている未来は関係者が「キッチンOS」と呼ぶ何かです。現在Innitは大手家電メーカーと提携してアプリからレシピを「実行する」ことで、火加減や調理時間を調整してくれるほか、食材ECのアプリを提供しています。健康志向やパーソナライズニーズを背景として、食材ECとレシピは融合していくのかもしれません。日本国内でも動画レシピを提供するクラシルが2020年に野菜宅配を始めたりしています。

遺伝子情報から食品をレコメンドする「DNA Nudge」

個々人の遺伝子情報をもとに摂取したほうが良い、逆に摂取は控えたほうが良いといった食品ごとのお勧め情報を色分けしてアプリで示してくれる、そんなアプリを提供するのが2015年に英国で創業したDNA Nudgeです。遺伝子に関する情報を保持するリストバンドも提供していて、そのリストバンドをして対応スーパーに入店、食品に近づけるとことで個人個人に適切な情報を教えてくれます。市場規模や立ち上がり速度を考えると、スタートアップとしての成功の難易度は高そうに思えますが、各個人の遺伝情報によって適切な治療法を選ぶ「ゲノム医療」と同様に、食の未来の1つの方向性かもしれません。

話題性も抜群、大豆から作る代替肉の「Impossible Foods」

植物由来の代替肉で作られたハンバー ガーのパテやソーセージを販売するImpossible Foodsは、一般メディアでも取り上げられることが多いユニコーンです。生肉の赤さや焼いたときの焦げ色を再現するために、血液の成分であるヘモグロビンの構成分子であるヘムの大量生産に成功。遺伝子工学を用いているためにImpossible Foodsの代替肉は日本国内では販売ができませんが、米国においては同社は2014年からFDAと安全性を検証。数年かけて承認を得て、2019年9月からはスー パーでの販売も開始しています。代替肉や培養肉の違い、そして日本で培養肉産業が立ち上がる可能性についてはインタビュー記事、「培養肉は装置産業になる、これは日本のチャンスだ―、SKS Japan主催の田中氏に聞いた」もご覧ください。

飲食店経営をワンストップのSaaSでサポートする「toast」

テーブルでの注文受付、メニューの管理・変更、リアルタイムの売上レポート、オンライン注文受付、店舗スタッフの労務管理など、飲食店経営に必要なシステムをワンストップで提供するのが2011年創業で、ユニコーン企業となったtoastです。テーブル予約やPOSレジ端末などを含めて、個別ソリューションとして立ち上がってきた市場ですが、顧客からみれば統合したSaaSである意味は大きいでしょう。「レストランテック」で総称されるこのジャンルを日本国内で見れば、古くからある総合電機メーカー系子会社が据え置き型POSレジ市場を抑えているところへ、iPad+SaaSのソリューションとしてスマレジやエアレジが業績を伸ばし、また業界別に細分化した形で多数のプレイヤーが参入しているという構図ががあります。

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Partner @ Coral Capital

Ken Nishimura

Partner @ Coral Capital

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